この夏、車でメリーランド州ボルチモアを走行中、市街地の外れのひっそりと静まり返った道路沿いに、ビビッドな色使いの外観が眩しい一軒のレストランを見かけました。「このストリートを通るのはこれが初めてというわけではないのに、こんなに目立つレストランを今日まで見たことがなかったなんて不思議だね。」と、運転していた夫が言いました。確かにここは、これまでも何度も通っている道です。
屋根の上の方に「ペーパームーン・ダイナー(Paper Moon Diner)」という看板が掲げられているのが見えました。
夫に車を停めてもらい通りを渡ってみると、建物の外には、宇宙人かと見紛うような、スプーンやコインや得体の知れない貴金属やモザイクで派手に装飾が施された何体ものマネキンが置かれていたり、トイレや流し台、クロウフット・タブ(ClawfootTub)と呼ばれるスタイルのオールドファッションのバスタブ製の花壇があったり、ビンテージの木製ベンチやレトロ調の錆びかけた壁掛けが掛かっていたりと、賑やかな平屋の店舗の屋根のてっぺんにいつUFOが着陸してもおかしくないと思うような不思議空間を醸し出しています。この後用事さえなければ、絶対に店内に入ってお茶だけでもしてみたくなるような独特の店構え。夕焼けの空に浮かび上がる「ペーパームーン(Paper Moon)」の駐車場のサインさえ神秘的です。
この近所には、ボルチモア美術館(Baltimore Museum of Art)や館内のガートルーズ・レストラン(Gertrude's) をはじめ、地元のアーティストが集う「ハムデン(Hampden)」界隈の「34丁目の奇跡(Miracle on 34th Street)」として全国的に知られているクリスマス・ストリート(Christmas Street)があるので、ハムデンへはよく出向いているのに、こんなカラフルな外観の建物にそれまで気がついたことがなかったことが本当に不思議です。
後ろ髪を引かれるような思いでこのお店を後にし用事を済ませて帰宅した後、この「ペーパームーン・ダイナー(Paper Moon Diner)」という店のウェブサイトを見てみると、そこは、2012年にオープンしたばかりの比較的新しいダイナーだということでした。
初夏に訪れていたこのダイナーがずっと心に残っていたので、つい最近夫とボルチモアへ出かける機会があった時、昼過ぎにそこで食事をしてみることにしました。アメリカのダイナーでは、昼も夜も朝食メニューからオーダーできるの朝ごはんを兼ねた昼ごはん(ブランチ)です。
夏の初めにも外の花壇の花々をエンジョイすることができましたが、この日は真夏の花々でいっぱい。辺りにはバラの香りが漂っています。
さて、いよいよ楽しみにしていた店内の玄関のドアを開けて、二度びっくり。窓と壁面いっぱいにペッズ(Pez)のディスペンサーが飾られているのです。私の後ろから2人の男の子たちと一緒にお店に入ってきたグランマの目が、数百個はあろうかと思われる壁面のディスペンサーの陳列棚に釘付けになってしまっています。
別のドアを開けてカウンター席と厨房がある店内に足を踏み入れると、そこにはレストランというよりは、博物館のようなスペースが拡がっています。数えきれないほどのおもちゃ、セルロイドの人形やマネキン、紙幣のコレクションのディスプレイや天井の飾りの数々が即座に視界に飛び込んできました。天井から室内のカウンターの位置に視線を戻すと、テーブルはどれも満席で左手のダイニングルーム混み合っているようでした。
一旦右手奥にあるダイニングルームのテーブルへ案内されて席に着いた後、私達のテーブルの係の女性に写真撮影をしても良いかどうか伺うと、嬉しそうに「もちろん!」という返事が返ってきました。再びレジのある中央の部屋へ戻って、ゆっくりと店内を見まわしてみます。
天井、壁面、ドア、照明と、店内のどこをとっても珍しいレトロなおもちゃや人形、ありとあらゆるビンテージの雑貨や絵画などのコレクションが整然とディスプレイしてあるので、料理を待っている間も全然退屈しませんし、ここならたとえひとりで食事に行っても絶対に話し相手がほしいと思うことはないだろうな、と思わせるような魅力たっぷりのお店です。
テーブルへ戻り、ほどなくして運ばれてきた料理を前に私と夫が食事を始めると、後ろのテーブルのグループが「ハッピー・バースデー」を歌い始めました。振り返ると、そのグループの隣の席に座ってひとりで食事をしていた女性が「今日は私の誕生日でもあるのよ。68歳になったの。」と言ったため、そこに居合わせた人々が口々にその女性に向かって「ハッピー・バースデー!」と声を掛け合うハプニングがあり、ただでさえアットホームなダイニングルームの雰囲気がますます明るくなりました。
この日私が注文したのは、「2個の卵にトマト、ほうれん草、マッシュルーム、ハムを混ぜ細切りのチェダー・チーズとジャック・チーズをトッピングしたスクランブル・エッグ、トースト、スィートポテト(角切りのサツマイモ)フライのセット「エッグス・ア・ラ・ルーシー・ファー(Eggs A La Lucy Furr)。お値段は$11.25です。
夫は「卵2個、肉、ホームメイドの(スィートポテト)のフライ、トースト(TWO EGGS, CHOICE OF MEAT,HOME FRIES AND TOAST)」のセットを選びました。こちらも値段は$11.25です。
ちなみに、アメリカのダイナーのメニューに"TWO EGGS"と "CHOICE OF MEAT"と記載されている場合、「卵2個」と「肉(ステーキなどの肉料理ではなく、ハム、ソーセージ、ベーコンなど朝食用に出される加工食品を指すことが多いです。)を一種類選べます。」という意味です。"THREE EGGS"と書かれてあれば、卵3個分の料理が出てくるわけです。卵料理の種類には色々ありますが、ここでは、スクランブルド(Scrambled)エッグ、ポーチド(Poached)エッグか目玉焼きから選べます。
もう少し細かく言うと、目玉焼きにも黄身が液状のもの(Sunny side up)、黄身をかために焼いたもの(Basted)、そして 両面焼き(Fried)があるのです。ステーキ同様卵料理の焼き加減も細かく注文できるのですが、この日は片面焼きのサニーサイドアップ(Sunny Side Up)を。このお店もそうですが、どのレストランでも、少し手間のかかるオムレツ(Omelette)やエッグベネディクト(Eggs Benedict)は、セットとしてではなく別に記載され値段も少し高いことが多いようです。
量はかなり多かったのですが、スクランブルエッグがふんわりと私好みに焼きあがっていてその上でとろりと溶けた2種類のチーズの風味も香ばしくあっという間にぺろりと平らげてしまいました。久々にアメリカのダイナーのほろ苦いコーヒーの味も満喫した後、裏手にあるテラスのビンテージのベンチで30分以上寛いで過ごしました。
このダイナーの魅力は、なんといっても現実離れした宇宙空間を醸し出しているお店の雰囲気と展示品の数々。その博物館並みのコレクションには目を見張るものがあります。レトロなおもちゃやビンテージ雑貨に興味がある方々には、ちょっと遠回りでもぜひ立ち寄っていただきたいお勧めのダイナーです。
【データ】
ペーパームーン・ダイナー(Paper Moon Diner)
住所:227 West 29th Street Baltimore, MD 21211
TEL:410-889-4444
Eメールアドレス:papermoondiner@gmail.com
営業時間:月・水・木・日曜日 7:00~21:00 金・土曜日 7:00〜23:00
定休日:火曜日
駐車場:無料駐車場完備(29丁目に面しています。)
URL:http://papermoondiner24.com/
公式FACEBOOKページ
URL:https://www.facebook.com/PapermoonDiner
公式ツイッターアカウント
URL:https://twitter.com/papermoondiner
Yelpレビュー
URL:https://www.yelp.com/biz/papermoon-diner-baltimore
ボルチモア美術館(Baltimore Museum of Art, BMA)
住所:10 Art Museum Drive, Baltimore, MD 21218-3898
TEL:443-573-1700 TDD: (410) 396-4930
開館時間:ご利用目的により時間帯が異なりますので、こちらをクリックしてご確認ください。
URL:https://artbma.org/visit/hours.html
ガートルーズ(Gertrude's)
住所:10 Art Museum Drive, Baltimore MD. 21218
TEL:410-889-3399(ご予約はこちらへ)
営業時間:11:30~21:00(火~金曜日) 10:00~22:00(土曜日) 10~20:00(日曜日)
クリスマス・ストリート(Christmas Street)
住所:720 West 34th Street Baltimore, Maryland 21211
URL:https://www.christmasstreet.com/
ハムデン・ヴィレッジ・商業組合(Hampden Village Merchants Association)
住所:3620 Falls Rd Baltimore, MD 21211
URL:https://hampdenmerchants.com/
ビジット・ボルチモア(VISIT Baltimore)
URL:https://baltimore.org/neighborhoods/hampden
舞林鳥 恵
80年代後半から日米間を往復する暮らしを始め、現在DCから小一時間の田舎町で夫とのふたり暮らしを満喫しています。カントリーライフの醍醐味をHappyNest in Americaにて配信中。ワシントンDC周辺の観光名所や魅力的な穴場スポットの情報をお届けします。