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ビアトリクス・ポター生誕150周年〜ピーターラビットシリーズゆかりの美しい街と湖

   
木谷 朋子
木谷 朋子
 
ファンの聖地ヒルトップ

2016 年は、世界で一番有名なうさぎ「ピーターラビット」の生みの親、ビアトリクス・ポターの生誕150 周年記念の年。日本では原画展が開催されるなど、ファンにとっては楽しみな1年になりそうです。
ロンドン生まれのビアトリクスですが、湖水地方を心から愛し、特に「私の理想の場所」と呼んだニア・ソーリー村に亡くなるまで住み続けたことは、ファンにとってはおなじみのお話です。ピーターラビットシリーズの多くの作品の舞台になったニア・ソーリー村や、彼女が購入したヒルトップ農場を訪れたことのある方も多いことでしょう。

今回は、ニア・ソーリー村以外を舞台にした物語に注目して、ビアトリクスゆかりの街と湖を取り上げてみたいと思います。

カレッジ横丁にあるビアトリクス・ポターミュージアム&ショップ

1903年に発表された『グロースターの仕たて屋』は、南西イングランドの町グロスターが舞台の作品です。グロスターはグロスターシャーの州都で、ロンドン・パディントン駅から列車で約2 時間の距離にあります。絵本の中には、グロスターの町の風景が背景として描かれ、ビアトリクスは自分の作品の中で最も気に入っていました。簡単にあらすじをご紹介しましょう。

グロスターの町にひとりの仕たて屋が住んでいました。高価な洋服を作っていましたが、本人の服はすり切れ、貧しい暮らしをしていました。あるとき、市長の結婚式用の上着とチョッキの注文を受けた仕たて屋は、布地を裁ち、あとは縫うだけにして仕事を終えました。ところが次の日から、仕たて屋は熱を出して寝込んでしまいます。クリスマス・イブの晩、仕たて屋の飼いねこシンプキンは、店の中で小さなねずみたちがみんなで縫い物をしているのを目撃します。結婚式の朝、仕たて屋が店へ行くと、仕事台の上には、でき上がった美しい上着とサテンのチョッキがのっていたので、びっくり仰天。これを機に仕たて屋は運がひらけ、体も丈夫になり裕福になりました――。

不思議な話ですが、ねずみの挿絵が愛らしく、日本でもファンの多い物語です。この作品は、ビアトリクスが、グロスターシャーの親戚の家「アズコウム邸」を訪れたときに耳にした話がベースとなっています。
カレッジ横丁にある仕たて屋のモデルになった店は、現在、1階がグッズショップ、2 階が小さなミュージアムになっています。すぐ近くにあるグロスター大聖堂は、映画『ハリー・ポッターと賢者の石』、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で、ホグワーツ魔法学校として撮影に使用され、グロスターはさらに有名になりました。

ミュージアム&ショップの内部

続いてご紹介するのは、『りすのナトキンのおはなし』。やはり1903年の作品で、ビアトリクスが『ピーターラビットのおはなし』のあとに発表したシリーズ第2作になります。湖水地方北部のダーウェント湖が舞台で、ブラウンじいさまのふくろう島は、実在するセント・ハーバート島がモデルとなっています。あらすじはこんな感じです。

赤りすのナトキンは、兄のトインクルベリといとこたちと湖のそばの森に住んでいました。りすたちは毎年秋になると、木の実をとるために湖の中央にある島に出かけていました。
島にはブラウンじいさまというふくろうが住んでいました。リスたちはみな、木の実をとる許しを得るためプレゼントを持っていきましたが、ナトキンだけはブラウンじいさまを挑発するようななぞをかけます。
りすたちが島に通い始めて6 日目。ブラウンじいさまに飛びかかったナトキンは、ブラウンじいさまに捕まって皮をはがされそうになります。ナトキンはなんとか逃げ出すことはできましたが、尻尾が切れてしまいました。今でもナトキンになぞをかけると、悪態ばかりついています――。

ダーウェント湖は、北湖水地方の中心部にある町ケズィックの近くにある湖。「湖水地方の女王」と呼ばれる青い輝きをたたえる美しい湖です。湖の北西部には、ポター一家が夏の休暇を過ごした「リングホーム邸」や『ベンジャミン バニーのおはなし』の舞台のモデルにもなった「フォウパーク邸」もあります。
この2 つの邸宅は所有者がいたため長らく非公開となっていましたが、「リングホーム邸」は近年ようやく見学できるようになりました(要予約)。
ビアトリクスは、1903 年の夏、「フォウパーク邸」で3カ月間過ごしている間に、周囲の風景や庭、うさぎのスケッチを70 枚以上も描きました。彼女は『りすのナトキンのおはなし』を描く際、それらのスケッチから水彩の写生画を描き、最後に動物たちを描いたのです。
ピーターラビットが登場しない物語にも、魅力的な動物たちがたくさん登場します。ぜひ、読んでみてくださいね。

ダーウェント湖の北西部にあるリングホーム邸

ビアトリクス・ポター生誕 150周年を記念し、その代表作と作品の世界を紹介する『I ❤(LOVE) ピー ターラビット™ 英語で楽しむピーターラビット™ と仲間たちの世界』が、ジャパンタイムズより発売になりました。
この本では、ビアトリクスの作品の中でも特に人気の高いピーターラビットが登場する3作品――『ピーターラビットのおはなし』『ベンジャミン バニーのおはなし』『フロプシーのこどもたち』――をオリジナルの英文と和訳、丁寧な解説つきで紹介しています。もちろん、動物たちのかわいい挿絵もオリジナルのもの。情感豊かなナレーションは、無料ダウンロードできるMP3形式の音声で提供しています。
ピーターラビットの世界観と誕生のひみつのほか、作者ビアトリクスの人となりがわかる読み物がたっぷりと詰まった保存版。湖水地方に行く予定のある方は、事前に目を通していただけると、旅がよりいっそう充実したものになると思います。
この本を旅いさらのイギリス旅行に申し込まれた3名の方にプレゼントいたします。

木谷 朋子

木谷 朋子
『留学ジャーナル』の編集者を経て1989年より2年間イギリスへ留学。帰国後はイギリスを始め、ヨーロッパ各地やアジア、オーストラリアなど、世界各地を取材。海外の旅文化や最新の旅行情報、語学、留学をテーマに幅広い分野で執筆活動を続ける。イギリス関係の著書:『英語で楽しむピーターラビットの世界BOOK1、BOOK2』(ジャパンタイムズ)、『英国で一番美しい風景 湖水地方』(小学館)、『ロンドンと田舎町を訪ねるイギリス』(共著・トラベル・ジャーナル)、『イギリス留学』(共著・三修社)ほか。

    

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