去年オープンしたシャンパンバー、TIME & FLOWが、食事も楽しめるバーとして、この1月にグランドオープンしました。オーガニックを中心としたこだわりのシャンパン、その背景にある生産者の思いやストーリーをもっと知ってほしい。そんな思いで、ゆっくりと食事を楽しめるシャンパンブランチとハイティーをスタートしたのだそう。
生ガキと8種類のフィンガーフード、温野菜と寿司がついて、シャンパンブランチ(90分のシャンパンのフリーフロー)がS$88、ハイティー(ノンアルコールドリンクのフリーフロー)はS$48(いずれも税・サ別)という、シンガポールではリーズナブルな価格。時間は11:00〜17:00の提供で、ゆっくりとアルコールと共にブランチを楽しみたいという場合にもぴったりです。
テーマは、ヘルシー&オーガニック。シャンパンは、畑のすべてがオーガニック認証されているという、デュヴァル・ルロワ(Duval Leroy)社 のもの。すっきりとしたブリュット・レゼルブと、熟成感とコクのある香りが特徴的なブリュットが特徴です。アルコールメニューは、そのほかにシャンパンマティーニやブラックベルベット(シャンパンと黒ビールを半々に割ったもの)日替わりのフルーツカクテルなどからも選べます。
ノンアルコールのフリーフローで提供されているほうじ茶やフラワーグリーンティー(ジャスミン茶)もオーガニックです。
そのほか、季節のフルーツのモクテル、季節の野菜のモクテルなど、ドリンクもヘルシーなチョイスがそろっています。
私はアルコールの方のコースを選択。スタートはシャンパンのカクテル(ノンアルコールの選択の場合は、モクテル)。
シンガポールスリングを意識したというこの日のオリジナルカクテルは、ソムリエで、東京のミシュラン二ツ星の老舗フレンチ、クレッセントで長年キャリアを積んだ坂本憲彦さんのオリジナル。シャンパーニュ地方の伝統に乗っ取って、ビスキュイ・ローズ・ド・ランスと共に供されます。シャンパンに浸して食べてもおいしいですよ、と坂本ソムリエ。チェリーとスターアニスの甘い香りに、ハイビスカスの酸味が効いた飲みやすいカクテルは、食前酒にぴったり。
続いて、デュヴァル・ルロワのオーガニック・ブリュット。ちょっと日向の香りのする、複雑で濃厚な香りが立ち上り、味わいはきりっと辛口。これが本当にフリーフローでいいの?と思ってしまう、とっても美味しいシャンパンです。同時に提供されるのは、アイルランド産の生ガキ。臭みが全くなく、コクのある味わいを堪能できます。
続いては、木のボードに載った8種類のフィンガーフード(写真は2人前)。恵比寿のシャトーレストラン、ジョエル・ロブションでキャリアを積んだ新田周平シェフの料理が手作りにこだわって作り上げた料理の数々を楽しめます。
右から、表面をバターでカリッと焼いたパンにハムとチェダーチーズ、大葉を挟んだもの。小さいながらも、とろけるチェダーチーズとハムの濃厚なうまみに大葉のすっきりしたアクセントが効いていて、満足感があります。パルマハムと、サワークリームをノルウェーサーモンに巻いたもの。実はこの日新田シェフは一人でお店のキッチンを切り盛りしていたそうですが、細かい盛り付けまで、ぴっちりと決めているあたりが、三ツ星ファインダイニングでのキャリアを感じます。
「ロブションでの新人時代、段取りよく、いかに同じクオリティーのものをを常に提供できるかを学んだ」のだとか。「美味しいものは、整った場所からしか生まれない」というのが、ロブションシェフの口癖だったそう。
そんなロブションシェフが来日する際、彼のまかないを任されていたという新田シェフは、常に、キッチンをきれいに整えて、段取りを考え「食べたい」と言われた瞬間にベストの状態のものを提供するのが習慣になっているそう。
こういった高いスタンダードが常に求められる仕事の中で、良い状態のものをいかに提供するかは、体にしみついているそうです。
そんな新田シェフの特に自信の品が、フォワグラのテリーヌ。赤ワインと共に煮たフランス産の鴨のフォワグラは、自ら手作りしたグレープフルーツとオレンジのジャムと合わせて。オレンジと鴨の相性は抜群、フォワグラにフルーツは鉄板の組み合わせです。ほのかなグレープフルーツの香りがアクセントになっています。「赤ワインの香りが感じられるでしょう?フルーツと相まって、サングリアのような印象が残るように作ったんですよ」確かに、フルーツカクテルや、モクテルなどとも相性が良さそうです。
キッシュは、サクッとしたタルト生地の中に、甘辛い醤油味のウナギが入っています!ええ?と、一瞬驚いてしまうような組み合わせですが、このしょうゆ味と、タルトのバター、卵の相性が意外とよくて驚きます。ウナギのバランスが緻密に計算されていて、あくまでもキッシュのアクセントとしての存在感で、和食にならないバランス感を保っています。個人的には、ちりばめられた甘辛い醤油味がなんともうれしかったです。
続いて、メインの一皿目、温野菜が登場(写真は2人前)。一口食べてみると、程よい食感を残した火入れ、野菜の自然な味や香りが生きています。ブロッコリーやカリフラワーをまずは素焼きし、次にアボカドオイルを加え、最後に塩を加えて強火で火を入れて仕上げたのだとか。日本で、よい野菜を知るために、こだわりの農家を回って土起こしから体験したという新田シェフは、「確かに、フレンチの伝統的な手法でよくやるように、バターやブロス(出汁)と仕上げてもおいしい。だけれども、バターなどの味でマスキングするのではなく、それぞれの野菜の個性を引き立てるには、このやり方の方がいいでしょう、とにっこり。上から上質なアーモンドのスライスを少しかけただけですが、北海道から取り寄せたという野菜の味に対して、また丁寧に野菜を作っている農家の方々に対してのオマージュが感じられる一皿です。ヘルシーなゆでたキヌアも添えられています。
続いて、メインの二皿目、寿司。なめらかな、程よい脂の乗り具合のサーモンの上には大粒のイクラ、そしてなんといっても、日本から直送の和牛の寿司。ロブションでは、デザートのセクション以外すべてのセクションを担当したという新田シェフ。最終的には肉や魚などのメインディッシュを扱う部門の責任者を任され、毎日20キロ以上の肉を料理してきたそう。
そんな中で学んだのは、肉の目利きのみならず、切り方。繊維に沿ってどんな風に切るかで、味は全く変わってくるのだそう。もちろん牛肉はA5〜A3のトップグレードのもののみを使用。口に入れると、脂の部分がとろけます。そして、米酢を使わず、シャンパンビネガーを使用。「寿司の形はしていますが、コンセプトはフレンチのお米のサラダなんです」と新田シェフ。華やかでフルーティーなシャンパンビネガーは、角のないまろやかな酸味。生の牛肉の繊細な甘みとうまみを打ち消さず、口の中で自然になじみます。
そして、ここからはボードのスイーツ部分をクローズアップ。ほろっとした食感のフィンガーサイズのスコーンは、小麦粉の香りを大切に焼き上げた一品。イタリア産の中力粉を使っているそうです。そして、定番のクロテッドクリームとイチゴジャムに加えて、独自に味をアレンジしたカヤジャム。パンダンリーフが入っていないので、卵黄のなめらかさ、濃厚なコクをそのまま味わうジャムです。続いて、チョコレートのタルト生地に、カスタードクリームを詰め、ラズベリーの中にミントクリームを入れたスイーツ。濃厚なカスタードとココアの香りに対して、ラズベリーの酸味とミントの清涼感がよく合います。マンゴーとパッションフルーツ、チーズのムースケーキは、ふんわりとした口当たりに、豊かな南国のフルーツの香り。上にのっているパパイヤはゆずのシロップに漬け込み、日本的なアクセントをきかせています。チョコレートケーキの定番、オペラは、上に抹茶をアクセントに加えるなど、日本らしさを効かせた仕上がりになっています。
おととし11月に来星、和食レストランのコンサルティング、メニュー開発など新規店舗の立ち上げに携わった後、去年12月にTIME & FLOWに参加した新田シェフ。このメニューもすべて、1から創り出したそう。今後は、1〜2ヶ月ごとに「季節感」「日本のフレーバー」「シンガポールらしさ」を柱にしたメニューを随時考案し、組み立てていくのだとか。90分の時間制限はありますが、11:00〜とお昼前のスタート、土日も行っているので、使い勝手が良さそう。美味しいオーガニックシャンパンと素材の味が活きたヘルシーな料理を楽しみたい方にお勧めです!
【データ】
店名:タイム・アンド・フロー(TIME & FLOW)
営業時間:11:00〜22:00(シャンパンブランチ、ハイティーは〜17:00)
定休日:無休
住所: 6 Scotts Road #B1-18/19 SCOTTS SQUARE 22820
Tel: +65-9060-2984
アクセス:MRTオーチャード駅から徒歩3分ほど
仲山 今日子
元テレビ山梨、テレビ神奈川アナウンサー。現在はフリーアナウンサー、ディレクター、ライターとしてお仕事を受けています。シンガポールのテレビ局J Food & Culture TV 勤務、All Aboutシンガポールガイド。ブログ。趣味は海外秘境旅行&食べ歩き、現在約40カ国更新中。