世界遺産・シギリヤロックに挑む
基本、旅をする前に下調べをしないタイプなので「シギリヤロック」についての知識は「世界遺産である」と言う事だけであり「オーストラリアのエアーズロックに似ているなあ」程度の印象であった。前の晩に滞在した「シギリヤ・ビレッジ」ではレストラン脇のプールサイドからシギリヤビレッジが一望できる。朝食を頂きながらシギリヤロックを眺め「今日はこれに登ります!」とフェイスブックにアップしたら、いざ出発!
途中、ガイドのラトナさんにシギリヤロックを眺めるならここ!とお勧めポイントを教えて頂き下車。昨日は「象の孤児園」で圧巻の情景に大興奮したが、ここでもまた息を飲む情景がひとつ。緑が広がる大草原の向こうに、神々しくそびえたつシギリヤロック。岩の下腹部をうっそうとした木々が覆い尽くす。観光客を乗せた象が草原を横切って行く。こんなにも素敵な絵画のような景色が世の中にはあるのですね。
悲哀のシギリヤロック
ここで少しシギリヤロックのお話しを。シギリヤ王朝5世紀、ダートゥセーナ王の長男であったカーシャパには異母兄弟の弟モッガラーナがいた。カーシャパの母は平民の血筋であったが、弟モッガラーナの母は王族の血筋。その為、自分は王位継承をできないのではないか?と、恐れた兄カーシャパは父である王ダートゥセーナを投獄。弟モッガラーナはインドへ逃亡。「隠し財産を出せ!」と王に迫ったカーシャパに対し、王は池を指さしこう答えた「この貯水池が私の財産の全てだ」カーシャパは王ダートゥセーナを殺し、シギリヤロックの岩上に宮殿を建立したのである。それは弟モッガラーナの復讐を恐れたからなのか、仏教徒でありながら実父を殺してしまった自分への罪の意識と苦しみの為なのか、狂気の王となったカーシャパがこの岩上に宮殿を建てたという事実だけは今もなお語り継がれている。
チケットオフィスを抜けシギリヤロックを囲む城壁を進むと宮庭が広がり、左右に現れる水の庭園は噴水も備わっている。かつてこの宮殿内に住んでいたとされる世界各国から連れてこられた100人以上のカーシャパ王の愛妾達は、この水の庭園で沐浴を楽しんでいたそうだ。
「一体あの岩上からどうやって降りて来て、どうやって戻ってきたのかしらん?」そんな軽口を叩きながらずんずん進む。怪しいお天気はついに雨となり、足幅の狭い石段を登り岩の中腹にたどり着いたら、今度はらせん階段を上る。暑いし、濡れるし、太りすぎて膝が痛い。ヘトヘトになりながら辿り着いた石窟には美女の壁画が描かれていたのである。これが有名な「シギリヤ・レディのフレスコ画」だ。これについては数多の説があるようであるが、ここでは「王宮に住んでいた王の愛妾達を描いた」と言う風説を信じたい。世界各国から連れて来られた美女たち。肌の黒い者もいれば白い者もいる。服を着ているものは侍女で裸の女性は上流階級の人間。そしてこの裸の女性たち。上半身裸のように見えるが、よく見ると実はうっすらとしたブラウスを着ているとは(ガイドの)ラトナさんによるレクチャー。それは身体のラインに沿ってうっすらと描かれた線で確認することができる。
フレスコ画の観賞を終え、らせん階段を下ると「ミラーウォール」と呼ばれる壁が続く。かつて「ミラーウォール」の反対側にも「シギリヤ・レディのフレスコ画」が描かれており、それを反射させるために作られたと言うのだから贅沢なあしらえ。面白いのは7〜11世紀ごろに書かれたと思われるシンハラ語の落書き。古代のスリランカ人が書いた落書きは、時空を超えた歴史の産物としてシギリヤロックの見どころの一つになっている。
ミラーウォールを抜けると広場「ライオンテラス」に到着。大きなライオンの前足が入口に鎮座している。かつてはこの上にライオンの頭部があり、大きく口をあけたライオンの中に飲みこまれるように宮殿内に入って行ったのではないか?と言われているが、はたして真相は如何なものか。
「ライオンテラスまで来れば、シギリヤロックを制覇したも同然です。」とは言われたけれど、せっかくなので頂上を目指す。ライオンの入り口から傾斜面かつ細々とした階段を登りきるとようやく頂上へ。宮殿跡地から望むのは360度パノラマの壮大なジャングル。まさに絶景そのもの。そよそよと風が吹き、観光客のざわめきを除けば静寂な虚空の空中庭園。限りなく天空に近い岩上に宮殿を建立したカーシャパ王はやがて、インドに逃亡していた弟モッガラーナとの戦いに敗れ、自らその命を絶った。その後、弟モッガラーナは首都を「アヌラーダプラ」に戻し、シギリヤロックの宮殿が発見されたのは、カーシャパ王の死後1400年後の19世紀後半、イギリス植民地時代に入ってからの事である。かくも悲しき人間の悲哀。かつての宮殿跡地から、はるか遠い昔の歴史物語を反芻しながらこの壮大な景色を眺める価値、シギリヤ・ロックにあり!!!
ちゃちゃまる。
学生時代は生粋のバックパッカーでタイを中心にアジア諸国をバックパックで駆け巡り、気付けば旅行業界歴十数年。ヨーロッパ、北米、アジア、中近東、アフリカ、オセアニア、と様々な地域の企画・手配に携わる。一番好きな旅スタイルは高級リゾートで昼寝であるが、最近は野生動物に出会う旅を一つのテーマにしている。