韓国の医療ツーリズムと韓方医療
あけましておめでとうございます。2015年が始まりましたね!
1月から『韓方デトックス紀行〜心とカラダに効く韓国旅』を書くことになりました旅行ライターの木谷朋子です。以前、健康系の出版社のWEBマガジンで「世界デトックス紀行」という連載を3年ほど書いていたことがあったのですが、今回は「韓国」に絞った記事を「旅いさら」で書くことになりました。
かれこれ韓国を旅するようになってこの1月で12年となります。最初に取材に訪れたのは、ちょうど日韓のワールドカップ開催の年で、大ブレイクした『冬のソナタ』が放映される前年のことでした。「韓方(韓国の漢方)」に関しても、ソウル取材中にその存在を知りました。
韓方治療には、私が90年代からヨーロッパで取材していた「アロマセラピー」、「タラソテラピー」、「ハーブ」、「ホメオパシー」といった、いわゆる代替療法(補完療法とも呼ばれます)と共通点がありました。当時、スリランカのアーユルヴェーダにも興味をもち始めた時期にも重なり、世界各地で似たような医療や治療法があることを実感。当時は日本でも「アロマセラピー」が流行していましたね。今回、コラムのタイトルを「韓方医療」とせず、なぜ「韓方デトックス」としたかについても、追々お話していこうと思います。健康と美容と旅に興味がある方、ぜひお付き合いください!
韓国の医療観光(ツーリズム)の現状
さて、第1回目の今回は、体験談や美スポットのご紹介ではなく、「韓国の医療観光(以下ツーリズム)」や「韓方について」ご紹介したいと思います。
じつは、「韓国の医療ツーリズム」は、韓国政府が2009年から推進している国家戦略の一つです。日本も「医療ツーリズム」に力を入れ始めているのですが、韓国の方がちょっと早かったですね。現在、ロシア、中国、モンゴル、ベトナム、アメリカ、日本などの海外から、年間10万人以上の患者さんが韓国を医療目的で訪れています。
韓国観光公社は、『2013年韓国医療観光総覧』で、韓国に医療目的で訪れる外国人観光客は、同伴者を含めると2013年は約40万人。2015年には59万人以上まで増加するだろうと予測しています。
そこで、外国人観光客が実際どんな医療を受けているのか、興味ありますよね。「韓国の医療って美容整形でしょ」と言われる人が多いのですが、実際はその治療は多岐にわたっています。「美容整形」だけが突出して有名になってしまっているのは誤解を招いていると感じます。「美容整形」、「美容皮膚科」、「美容歯科」、「脊椎治療」、「肥満治療」、「レーシック」などの治療で多くの外国人観光客が訪れており、日本人の場合は、医療ツーリズムの推進以前から、「韓方(韓国の漢方)」の治療を受けている人がいました。
江南メディカルツアーセンター
「医療ツーリズム」の推進事業の一環として登場したのが、2013年にソウルの江南にオープンした「江南メディカルツアーセンター」です。場所は狎鷗亭駅から徒歩1分!アクセスの良さも魅力です。海外からの旅行者のために作られた「江南観光情報センター」の1階にあり、最先端の機器を導入した新感覚の体験型観光案内センターとして注目されています。
この「江南メディカルツアーセンター」には、日本語、英語、中国語、ロシア語の堪能なスタッフが常駐し、自分の治療目的を相談すれば、その人に合った医療機関を紹介してくれます(相談は無料)。医療機関を調べる検索サイトも充実していますし、館内には、一部の医療機関の出張コーナーもあり、相談や簡単な検査もできるようになっています。「興味はあるのだけど、すぐに治療は怖い」という人や、じっくり医療機関の違いを調べて検討したい人にぴったりの場所です。
2階にはK-POPスターの衣装や私物の展示場、なりきりスターゾーン、ミュージックビデオや未公開映像の視聴コーナーやグッズ売場が揃う韓流館もあります。
ドラマ『チャングムの誓い』で韓方と医食同源の世界に開眼
私が「韓方」の存在を知ったのは、2002年のことです。取材先の一つだったソウルの梨大(イデ)にある『韓方エステ梨花』で、日本人オーナーのUさんから、韓国の伝統医療の存在や韓方医学のことを教えていただいたのがきっかけです。Uさんが韓方の効能をエステに取り入れていることに興味を持ち、私も独学で「韓方医学」のことをちょっとずつ調べ始めました。
とはいえ、本だけの知識ではやはり頭の中のものだけにとどまったと思います。2004年に放映が始まった『宮廷女官チャングムの誓い』や、同じイ・ビョンフン監督の作品『ホジュン〜宮廷医官への道』なども、さらに「韓方」に興味をもつ大きな要因となりました。ドラマの影響はとても大きく、私と同様「韓方」へ興味をもつ人が日本でも増え始め、ソウルの韓方市場「京東市場」にも、日本人観光客を見かけることが多くなりました。
私も『チャングムの誓い』を見たのを契機に、韓方クリニックに出かけたり、診断を受けて韓方薬を飲んだりするようになりました。驚いたのは、現在も韓国の韓方医が行っている「患者の顔色を見る望診」、「体の調子やお通じ、睡眠、食欲などを聞く問診」、「脈を診る脈診」が、チャングムの時代の朝鮮時代から行われていたことでした。韓方治療の良さは、やはり医者が患者の顔や体をじっくり診てくれ、体の状態の話をじっくり聞いてくれることです。体質に合わせた薬の処方もナットクできるところで、私も長年の悩みの種だったにきびが1か月半の韓方薬で見事に消えたときには、本当に驚きました。
未病を防ぐ「韓方」の魅力
「韓方」というのは、中国の漢方医学が韓国に伝わり、その後、韓国の風土や韓国人の体質や生活習慣に合うように研究され、発展してきた医学を指します。
朝鮮時代を代表する韓方医ホ・ジュンが、1596年から14年の歳月をかけて完成させた『東方宝鑑』は、現在も韓方医のバイブルと言われています。
現在テレビ東京で放送中の『ホジュン〜伝説の心医』は、1999年に大ヒットしたドラマ『ホジュン〜宮廷医官への道』のリメイク版です。韓国ドラマの放送が少なくなったと言われる中、NHKBSプレミアムで放送中の『馬医』や『ホジュン』のリメイク版など、韓方医が主人公のドラマが作られているのも、医療ツーリズムや韓方の推進に一役買っていると思います。これも大きな意味での国家戦略なのかもしれませんね。
それでは、韓方は韓国の医学の主流なのでしょうか?いまの韓国では、医学が西洋医学と韓医学(韓方)の2つに分かれています。韓方医になるには、西洋医学の医者になるのと同様、大学で6年間学び、インターンとしても学ばなければなりません。日本では東洋医学はあるものの、西洋医学が圧倒的に主流ですから、そのあたりがまったく違いますね。
現在、ソウル市内だけでなく、韓国各地にはたくさんの韓方病院があり、韓国では多くの人が日常的に利用しています。私が訪れた20数軒の病院では、日本語通訳や日本人の考え方を理解するスタッフを常駐させ、日本人観光客が安心できる体制を整えていました。
病院によっては、西洋医学と韓方医学の融合も行われており、昨年2月に参加した韓国韓方医療視察会では、患者の体質や状態に合わせた統合的な治療体制が確立されつつある現場を見学してきました。
私が「未病を防ぐ」という「韓方」の考え方に興味をもつようになったのは、肩こりやちょっとだるい、むくむといった、西洋医学では病気とは捉えられない症状でも、将来何かの病気の始まりになるのでは?と思ったことがきっかけです。体調が悪いのに、病気じゃないと言われ、お医者さんを転々とする人も少なくないご時世。私自身は、西洋医学を頭から否定はしてはいませんが、検査重視になりがちな点、患者の顔色を含め、問診もほとんどしない医者が多いことに、以前から疑問を持っていました。韓方と西洋医学の双方の良さを融合させた統合医療が理想と感じています。
木谷 朋子
『留学ジャーナル』の編集者を経て1989年より2年間イギリスへ留学。帰国後はイギリスを始め、ヨーロッパ各地やアジア、オーストラリアなど、世界各地を取材。海外の旅文化や最新の旅行情報、語学、留学をテーマに幅広い分野で執筆活動を続ける。韓国関連の著作:『Live from Seoul』(ジャパンタイムズ)、『人気韓国ドラマロケ地めぐり』(学研)ほか、『るるぶ韓国』、『るるぶソウル』(JTBパブリッシング)では『韓流ブック』を担当。