ロンドンのウェストミンスターにある「バンケティング・ハウス」は、かつてホワイトホール宮殿の王族たちが宴(バンケット)を催すために建てた別館。いわばゴージャス版の催事場です。別棟だったのが幸いしてホワイトホール宮殿を消失させた2度の火災を免れ、今でもその姿をとどめています。そしてここは、バロック芸術の巨匠ルーベンスが描いた天井画がオリジナルの場所に保存されている!という希少な場所でもあります。 そもそもルーベンスにこの大作を依頼したのは、17世紀中ごろの王様チャールズ1世。彼は芸術に造詣が深かった事でも知られ、イギリス王室が擁する美術品コレクションの基礎を作った人物と評されています。 なのに1649年、オリヴァー・クロムウェルを中心とした清教徒革命のため、正にこの「バンケティング・ハウス」前で公開処刑をされてしまったのだから皮肉なもの。 それでは中に入ってみましょう。入口で入場料を払うと貸し出してくれる音声ガイドには、日本語もありますよ! 中に進んで行くとまず、この「バンケティング・ハウス」に関する歴史を平易に解説するショート・ビデオを見る事ができます。 余興として演じられたお芝居の舞台セット模型なども展示されていて・・・数百年前だった事を鑑みれば、確かに王族・貴族しか楽しめない娯楽だったと実感します。そして階段を上って、メインの見どころへ! こちらがルーベンスの天井画がある大広間。チャールズ1世は処刑場に向かう時もここを通って表に引っ立てられたのですが、一体どんな心境だったのか。この美しい光景に相反して、想像を絶する残酷さにも思いを馳せてしまいますね。 上の画像で、入場者たちが寝転がっているのが見えますか?何しろこの「バンケティング・ハウス」はメインの見ものがルーベンスの天井画なので、最近はより簡単にしっかり鑑賞できるようビーンバッグが用意されているのです! だから私も、そのひとつに寝そべってみました!傍らに置いたバックパックで、ビーンバッグの大きさが分かると思います。 はい、これが仰向けに寝そべって見た天井画です。この絵で中心的な存在になっているのはジェイムズ1世、すなわちチャールズ1世の父。当時は父親を絶対的に強大・崇高な存在として描く事によって、その後継である自分の力をアピールしていたわけです。 この後で学芸員の方に伺ったのですが、チャールズ1世の処刑は1649年1月30日の午後2時だったそうです。 そして、その時刻は相向かいにある騎馬衛兵舎の時計塔にも刻まれていました。ちょうど2時の辺りに、何か黒っぽい印がついているのです。現在でも1月30日の午後2時には、チャールズ1世の慰霊イベントが行われている「バンケティング・ハウス」。規模は小さいけれど天井画を堪能するためのビーンバッグなどという工夫が意外で、ちょっと独特な場所ですよ。【データ】バンケティング・ハウス(Banqueting House)住所: Whitehall, Westminster, London SW1A 2ERTel: 0844 482 7777URL:http://www.hrp.org.uk/banqueting-house/入場料:大人£6.00(2017年5月現在・ロンドンパスも有効) 小野 雅子ロンドン西郊外に住む会社員、職場はヒースロー空港周辺です。在英20年以上の経験値を発揮して、初めてイギリスへいらっしゃる方にも興味深く分かりやすいロンドン観光&生活ガイドとしてお役に立てれば…と思います。個人ブログ「ロンパラ!」はこちら♪