普段韓国にあまり馴染みがない方でも、平昌(ピョンチャン)という地名はだいぶ耳に届いてきた頃でしょうか。韓国の北東部、江原道に属する平昌では、2018年2月に冬季オリンピック・パラリンピックが開催されます。日程がだいぶ近付いたことで、地元でも着々と準備が進んでおりますが、そんな平昌とともにお伝えしたいのが旌善(チョンソン)、江陵(カンヌン)というふたつの町です。冬季五輪の開催地は平昌ですが、実際の競技は隣接する旌善、江陵にもまたがっているんですね。アルペン競技の一部は旌善で、フィギュアスケートなどの氷上競技は江陵で行われるので、現地観戦なさる方はご注意ください。 今回はそんな旌善の紹介。オリンピックが近付いたことで、旌善もその関連で話題になることが多いですが、本来は山間部にあって野草や山菜の産地として有名な地域です。その象徴ともいえる場所が、特産品のずらり集まる旌善アリラン市場。アリランというのは韓国の伝統民謡を指し、旌善アリランは、珍島アリラン、密陽アリランとともに韓国3大アリランのひとつとして知られています。 もともとは2と7のつく日のみ賑わう五日市場でしたが、最近は観光客も増えてそれ以外の日でも店は営業しています(もちろん2と7のつく日のほうがより賑やかです)。市場を見て回れば、ソバ、キビ、モチトウモロコシといった穀類に、アザミ、ヤマボクチ、シラヤマギク、ツルニンジンといった野草、山菜類。また、韓国では韓方としての利用が盛んなファンギ(黄耆、キバナオウギの根茎)も市場にたくさん並んでいます。旌善のファンギは水はけのよい石灰質の土壌で栽培され、他地域よりも長期間栽培できるのが特徴とか。市場内では貴重な10年物のファンギも販売されていました。 お店の方によるとファンギには、強壮、止汗、疲労回復、利尿作用などの効果があるそうです。韓国では料理にも多く使われており、特に鶏料理との相性がよいとされますね。サムゲタン(ひな鶏のスープ)や、タッペクスク(丸鶏の水炊き)を作るとき、一緒に煮込むことが多いです。ファンギそのものを食べることはできませんが、上記のような薬効を期待しつつ、煮込んだエキスとして使うことが多いです。 旌善名物の韓方タッカルビ 旌善においてはファンギタッカルビという料理が有名。タッカルビ(鶏肉の鉄板炒め)は最近、日本でも溶けたチーズに絡めて味わうチーズタッカルビがブームになっていますが、旌善ではファンギを使ったタッカルビが人気です。市場内では「チェイルマッチプ」という店で食べられますが、仕込みに時間がかかるため、前日までの要予約メニューとなっています。 足を運んだのが春だったので、包み野菜にポムトンと呼ばれる春白菜が出ていました。鶏肉が柔らかくそのまま食べても美味しいですが、ポムトンに包むことでシャッキリとした瑞々しさがアップ。 こちらは同じく旌善の特産品であるアザミの葉をチャンアチ(甘酢漬け)にしたもの。アザミの葉は風味がよく、コンドゥレバプという釜飯にしても美味しいですが、ナムルやチャンアチにしても優秀なんですよね。甘酸っぱさと、青々とした葉っぱの風味が、これまたタッカルビの鶏肉とよく合いました。 一緒に合わせたお酒はこちらのファンギマッコリ。ファンギ0.44%配合ということで、香りや味からはその気配を感じ取ることができませんでしたが、マッコリとしてはすっきり爽やかな仕上がりです。ほかにもこの市場には、コンドゥレマッコリ(アザミの葉マッコリ)、オクススマッコリ(トウモロコシマッコリ)といったご当地銘柄が用意されています。 ファンギタッカルビ以外にも、メミルブチム(そばチヂミ)、メミルチョントク(キムチのそばクレープ巻き)、ピンデトク(緑豆チヂミ)など、マッコリに合う料理がたくさんあるので、そちらも試してみてください。これらは店頭で焼いたものを、お店の中でも味わえるようになっています。また、デザートがわりにアンコの入ったススブクミ(焼いたキビ餅)などもおすすめです。 あるいは旌善アリラン市場といえば、こんな甘味もあります。ヤマボクチの葉を餅に練り込んだスリチィトクは、草餅のような風味と、もっちり柔らかな食感が絶妙にマッチ。アンコ入りと、アンコなしの2種類ありますので、まずはアンコなしでヤマボクチの風味を楽しみ、後からアンコ入りを試すのがおすすめです。ぜひ食べ比べてみてください。 【データ】店名:チェイルマッチプ(제일맛집)住所:江原道旌善郡旌善邑五日場キル31-8(鳳陽里344-4)住所:강원도 정선군 정선읍 5일장길 31-8(봉양리 344-4)Tel:033-563-0201 八田 靖史1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。