いまこれを書いている日の時点で、あと323日。いつの間にやら1年を切りましたね。いよいよ来年に控えた、2018年平昌(ピョンチャン)冬季オリンピックの話です。開会式が行われるのは2018年2月9日。韓国の東北部に位置する江原道の平昌にて、17日間の熱戦が繰り広げられます(平昌パラリンピックは3月9日から18日まで)。先日、その平昌に足を運んできましたが、至るところで着々と準備が進んでいるようでした。冒頭の写真は、バイアスロンなどの雪上種目が開催されるアルペンシアリゾートスキー場です。 こちらはアルペンシアリゾートスキー場と隣接するアルペンシアスキージャンプセンター。ちょうど選手たちが飛び出してくる裏手の方向にスキー場があります。いちばん高いタワーの円形部分は展望台になっており、平昌の山々に囲まれたオリンピック関連施設を一望できます。 さて、そんな冬の平昌において、オリンピック関連以外で、ぜひ見ていただきたいのがこんな光景。寒風吹きすさぶ山中にて、吊り下げられた大量のスケトウダラです。冬にとれたスケトウダラを、春までこうして野外で自然乾燥させることで、アミノ酸を豊富に含んだ上質の干しダラに仕上がります。これを韓国語ではファンテと呼ぶのですが、平昌はその名産地として全国に名を轟かせています。 主な食べ方としてはまずスープ。干しダラはいいダシが出るうえ、じっくり煮込むとそのまま具にもなるんですよね。もろもろっとした食感から、香ばしいうま味がじんわりと広がって、なんとも後を引きます。地元では朝食メニューとして人気が高く、中でもお酒を飲んだ翌朝にぴったりの料理とされています。そもそもこのスープ、名前をファンテヘジャンクッと呼ぶのですが、ヘジャンクッというのが酔い覚ましのスープを意味します。疲れた胃腸に染み渡るのが持ち味です。 あるいはこちら、ファンテグイと呼ばれる焼き魚。表面に甘辛いタレを塗って焼くため、いかにも辛そうですが、食べてみるとむしろ甘味を強く感じる料理です。スープのほうはあっさりですが、こちらは噛むごとにスケトウダラの脂がギュギュッとにじみ出て濃厚。ほかにも現地では、ファンテチム(干しダラの蒸し煮)、ファンテジョンゴル(干しダラの鍋)、ファンテプルコギ(干しダラと牛肉の煮物)といった料理を味わえます。 ファンテ料理を出す店は平昌にたくさんありますが、おすすめはこちらの「ファンテ会館」。専門店らしくファンテを使ったメニューが豊富であるのみならず、オリンピック会場であるアルペンシアリゾートからも近く、同じ大関嶺面(テグァルリョンミョン)内の横渓(フェンゲ)という地域にあります。 一方で平昌にはこんな郷土料理も……と言いつつ、これではどんな料理かわからないですね。一面に敷き詰められた白菜も高冷地である平昌の特産品ではありますが、メインとなるのはその下。火にかけてゆくと、中から顔を出すのは……。 こんな感じの面々。ぶつ切りにしたスルメイカと豚バラ肉が真っ赤なタレに絡んでいます。すなわちスルメイカと豚バラ肉の炒め物なのですが、これを韓国語ではオサムプルコギと呼びます。日本語の感覚だと「オサム」という部分についつい人の名前を想像してしまうものですが、オジンオ(スルメイカ)の「オ」と、サムギョプサル(豚バラ肉)の「サム」の頭文字を取ったもの。プルコギは牛焼肉を指す場合も多いですが、直訳すると「火の肉」という意味で、こうした炒め物などにも使われます。日本全国のオサムさんには、ぜひ身近に感じていただきたい平昌の郷土料理ですね。 ピリ辛の味付けもさることながら、スルメイカのぷりぷり具合が秀逸。というのも江原道の東海岸沿いはスルメイカの名産地でもあるんですね。地図を見ていただくとわかりますが、平昌は意外と海にも近く、東海岸有数の港町である江陵(カンヌン)とも隣接しています。スケトウダラといい、スルメイカといい、山間部にありながらも海の幸が豊富にあって、両方の食材を楽しめるのが平昌の魅力と言えましょう。 そんなオサムプルコギもファンテと同じく横渓という地域の名物。地元の有名店であるこちらの「トアム食堂」は、先ほどの「ファンテ会館」は徒歩5分の距離だったりします。朝ごはんにファンテヘジャンクッを食べて、オリンピックを観戦の後、夕食はオサムプルコギといった1日のプランも考えられますね。 【データ】店名:ファンテ会館(황태회관)住所:江原道平昌郡大関嶺面ヌンマウルキル19(横渓里348-5)住所:강원도 평창군 대관령면 눈마을길 19(횡계리 348-5)Tel:033-335-5795 店名:トアム食堂(도암식당)住所:江原道平昌郡大関嶺面大関嶺路103、2階(横渓里323-6)住所:강원도 평창군 대관령면 대관령로 103, 2층(횡계리 323-6)Tel:033-336-5814 八田 靖史1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。