
東京は関東平野の中にあり都心からは山の姿を望むことができません。細長い列島を山系が銃弾する日本では極めて珍しい風景といえるでしょう。ポルトガルの首都リスボンは起伏に富んだ地形に手を加えることなく街並が作られ、7つの丘の街と呼ばれています。

市街地を縫うように走る道路は坂道が多く、リスボンの市民は徒歩や自転車での移動を好みません。地下鉄やバスの他にトラムが欠かせない足となっています。自動車はトラムの進行を妨げないように運転します。トラムが走行できない急な斜面を力強く走るのはケーブルカーです。市内には3つの路線が運行しています。この中で、グロリア線とラヴラ線の車両は極めて特徴的です。勾配に合わせて斜めになった台車の上に平らな床を乗せた構造となっています。出歯のような車輌の下側では乗降はできず、上部の扉から乗り降りします。

傾斜に沿って走る乗物の他に、バイシャ地区とシアード地区を繋ぐのは垂直に移動するエレベーターです。カルモ通りの袂から周囲の建物の壁に接するようにせりあがる灰色の鉄製の塔の中を、サンタ・ジュスタのリフトが上下しています。1902年に完成して以来、市民の貴重な足となっています。リフトを利用すれば低地のバイシャ地区から、小高い丘の上に建つカルモ修道院まで疲れることなく登ることができます。高さ約45メートルのところには展望台も設けられており、リスボンの市街地を一望することができます。



リスボンは大西洋に流れこむテージョ川の河口に開けました。ヨーロッパ大陸の地の果てであると同時に海への玄関でもあるのです。大航海時代にはリスボンの港から夥しい数の船舶が世界の海に漕ぎ出しました。

テージョ川に面してコメルシオ広場が整備されています。16世紀には広場の一帯は港湾関係の施設が立ち並んでいました。ヨーロッパ各国からアジア、アフリカ、アメリカの諸外国に向かう最前線基地の役割を担っていたのです。

コメルシオ広場からは北方のロシオ広場に向かって歩行者天国のアウグスタ通りが伸びます。2つの広場を中心とする区域はバイシャ地区と呼ばれ、市内でも最も人通りの多いエリアです。リスボンは1755年の大地震で壊滅的な被害を受けましたが、いち早くこの地区の再開発が進められました。碁盤の目を形作る街並には耐震設計された建物が並びます。
ロシオ広場にはモザイク状の石畳が敷きつめられ、フランスから輸入したブロンズで噴水が作られ水しぶきをあげています。広場の中央の円柱の先からは、初代ブラジル皇帝を務めたドン・ペドロ4世がリスボンの市街地を見下ろしています。1846年には広場に面してネオクラシカルな建築様式で、ドナ・マリア2世国立劇場が建造されました。



バイシャ地区は大航海時代からの歴史的な雰囲気を漂わせるばかりでなく、ケーブルカーやエレベーターなどユニークな乗物で周囲の丘とも繋がっているのです。
【データ】
施設名:サンタ・ジュスタのリフト Elevador de Santa Justa
アクセス:Rossio駅またはBaixa-Chiado駅より徒歩約3分
運行時間:7:00〜23:45
休み:無休
施設名:コメルシオ広場 Praça do Comércio
アクセス:Baixa-Chiado駅より徒歩約5分
施設名:ロシオ広場 Praça de Rossio
アクセス:Rossio駅より徒歩約1分