昨年10月、韓国の中東部に位置する栄州(ヨンジュ)という町で、創設2年目のウォーキング大会に参加しました。韓国ではここ数年、観光コンテンツのひとつとしてウォーキングに力を入れており、たくさんの地方都市で大会が増えています。有名なのは済州島で開催されているオルレというウォーキングコースで、島全体と離島にもまたがって21コースが整備されています。あるいは釜山(プサン)から東海岸沿いに北上していくヘパランキルというコースもあり、こちらは10区間、50コース、総延長770kmとダイナミックな規模を誇ります。土地ごとの風景を愛でつつ、地方をのんびり歩いてみたいという人にはぴったりではないでしょうか。 栄州のウォーキングツアーに参加してみて気付いたのは、ゆっくり歩くことで地域性がよりよく見えるということでした。栄州は小白山脈の麓にあって農業、畜産業の盛んな地域。リンゴ畑の中を歩いたり、高麗人参畑の脇を通ったり、あるいは牛舎から漏れ聞こえてくる牛の鳴き声をBGMにしたりというのが楽しいですね。リンゴ、高麗人参、韓牛(ハヌ)は、いずれも栄州を代表する特産品です。 リンゴはちょうど収穫の時期でもあったのですが、僕らを見かけた農家の方が作業の手を止め、とれたてのリンゴを振舞ってくれたりも。歩きっぱなしで喉も乾いていただけに、その瑞々しさがなんとも嬉しく、ジューシーな甘味も身体に染み渡りました。こうした地元の方々とのふれあいがあるのも、地方をのんびり歩く楽しさかと思います。 別のポイントでは、丸ごとリンゴと、リンゴジュースが配布されたりも。きっと自治体のほうでもいいPRの機会と考えているのでしょうね。栄州はリンゴの町。歩くだけでもそれがよくわかる仕掛けになっていました。なお、栄州は秋のウォーキング大会だけでなく、小白山脈を中心にチャラッキルという13のウォーキング、トレッキングコースも整備されています。秋の大会に合わせずとも、日程の合うときにぜひ栄州の自然と触れ合ってみてください。いずれのコースも距離の平均は12km程度。4時間前後で踏破できるものとなっています。 さて、そんなリンゴで有名な栄州ですが、その魅力をアピールするために、こんなところにも出張していました。ソウルの弘大(ホンデ)にあるお店ですが、リンゴと豚肉を融合させた新しいコンセプトの焼肉店。ハングルを読める方は、店名が「アップルサムギョプサル」となっているのをご確認ください。リンゴと一緒にサムギョプサル(豚バラ肉)を食べる専門店ということで、2015年11月に仁川(インチョン)でオープンし、人気を得てソウルにも進出してきました。 店に入ると、まずはリンゴがお出迎え。「アップルサムギョプサル」では、栄州市、栄州農産物流通センターは業務協約を結んでおり、お店で提供するリンゴはすべて栄州産を使っています。 こちらが看板料理のアップルサムギョプサル。スライスされたリンゴが、専用の鉄板に載っているのがなんとも目新しいですよね。豚肉とは別に、こちらで少しずつ熱を通してしんなりさせる意味合いがあります。またお肉のほうもサムギョプサルだけでなく、モクサル(肩ロース)、ハンジョンサル(豚トロ)、ソーセージ、エビなどを組み合わせた盛り合わせメニューあって、いろいろ楽しめるうえ値段的にもお得です。 ふと脇に目をやると、テーブルにはこんなサラダ風の器が。スライスしたタマネギは焼肉と一緒に食べる定番のおともですが、ここにも千切りにしたリンゴが入っていました。こういう細かいところまでリンゴ尽くしというのが嬉しいですね。 そして、これらリンゴがこうなります。熱を通して柔らかくなったリンゴに、焼けた豚肉と、リンゴ入りのタマネギサラダを載せ、薬味の千切りネギなども少々。大きな口を開けてこれを丸ごと頬張れば、シャクッとした千切りリンゴの瑞々しさに、ジューシーな豚肉の脂、そしてしんなり熱の通ったスライスリンゴの絶妙なる甘さが加わって、なんとも見事なコラボレーションなのでした。いやはやリンゴと豚肉がこれほどまでに合うとは。予想をはるかに超える相性のよさにびっくりです。 最後に頼んだマッククス(冷やしそば)もやっぱりリンゴ入り。店に入るところから、シメの一品に至るまで、リンゴの香りに包まれ続けるなんとも幸せな時間でした。リンゴ好きな方には熱烈おすすめ。豚肉とリンゴの組み合わせにグッと来た方も、ぜひ試してみてください。【データ】店名:アップルサムギョプサル弘大店(애플삼겹살 홍대점)住所:ソウル市麻浦区臥牛山路21キル31-10(西橋洞364-22)住所:서울시 마포구 와우산로21길 31-10(서교동 364-22)Tel:02-332-6092 八田 靖史1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。