島国の日本からは海を越えなければ他国へ行くことができません。諸外国と交流をするためには海上の交通を整備することが重要です。イタリア北東部アドリア海の北端には7世紀末から1797年まで、強大な海洋国家が繁栄を極めました。ヴェネツィアは、東地中海貿易によって栄えた歴史上最も長く続いた共和国なのです。アドリア海の干潟ラグーナに浮かぶ118の小島から成り立っています。
イタリア本土から電車でヴェネツィアを目指したときに、大陸側の最後の駅となるのはメストレ駅です。ここから約4キロの海に架かる橋をゆっくりと渡ると、サンタ・ルチア駅に到着します。駅前広場の正面にはカナル・グランデが流れ、東側にはスカルツィ橋が架けられています。
カナル・グランデはS字のような曲線を描きながらヴェネツィアを二分する運河です。水面にはおびただしい数の船が行き交い、交通の大動脈となっています。カナル・グランデには4つの橋が架けられており、最も古いのは16世紀半ばに建設されたリアルト橋です。この橋の設計の一般公募にはミケランジェロも参加したようです。
ヴェネツィアの市街地で中心となるのはサン・マルコ広場です。広場はサン・マルコ寺院、ドゥカーレ宮殿、旧政庁のプロクラティエ・ヴェッキエなど、歴史的な建造物で囲まれています。ヴェネツィアの人々がエネルギッシュに地中海に乗り出した中世の時代が偲ばれます。
広々とした空間はサン・マルコ広場に限られ、島の中には大きな通りもなく、細い路地と水路で埋め尽くされています。路地を歩いていると時空の迷路に迷い込んだような錯覚に襲われます。
車がないヴェネツィアでの移動手段は徒歩の他には、水上バスのヴァポレット、水上タクシー、ゴンドラなどの船となります。要所の移動であればヴァポレット、水上タクシーが便利ですが、運河の街をゆっくりと散策するにはゴンドラが最適です。ヴェネツィアの繁栄を支えた貴族たちはゴンドリエーリを抱え、自家用のゴンドラを使用していました。細長い平底の船体の船首、船尾は高く反り上がった形が特徴的です。
緑色の下地に金色の文字でGONDOLEと書かれた標識があるところが、ゴンドラの乗り場です。白地に赤色または黒色のストライプが入った漕ぎ手ゴンドリエーリのボーダーシャツも目印となります。乗船時間とルートの希望を伝えて料金の交渉をします。現在、日中であれば40分間で80ユーロ、以降20分ごとに40ユーロずつ加算という公定料金がありますが、あくまでも参考値で交渉によって上下します。
ゴンドラに乗船する際は、座る椅子の位置はゴンドリエーリの指示に従わなければなりません。船のバランスを考えて配置していくのです。座席が決まると、ゴンドリエーリは船尾のポッパの台の上から櫂を水面に降ろし船を動かします。
ゴンドリエーリが澄み切った声で歌うカンツォーネを耳に、ゴンドラは水面を滑るように進みます。水路の左右には大理石がレース編みのように織られた宮殿や教会、ヴェネツィアの人々が暮らす民家がゆっくりと流れていきます。水面から水の都をのんびりと眺めることができるのはヴェネツィア最大の魅力と言えるでしょう。ヴェネツィアとその潟は、1987年にユネスコの世界遺産に登録されています。
【データ】
＜ヴェネツィアへのアクセス＞
ローマのテルミニ駅から高速列車で約3時間30分
大林 等
メーカ勤務の出張とプライベート旅行で渡航した国の数は49になります。各国での 異文化体験は数知れません。カルチャーショックを起爆剤に、各国の歴史や文化に 深く切り込むスタンスを崩すことなく持ち続けています。観光情報から社会、習 慣、宗教、グルメ、アート、民族芸能まで、ジャンルの垣根を超えた海外での経験 を、各種の雑誌やWebサイトなどで発信し続けています。
Facebook： 
