日本の都道府県で東京に次いで人口が多いのは神奈川です。900万人もの人々が暮らしながら、その面積は5番目に小さいのです。約2400平方キロの神奈川県とほぼ同じ面積で独立する国があります。ヨーロッパの中央に位置するルクセンブルクは、南北約82キロ、東西約57キロです。国内のどこからでも車で走り出せば2時間で国外に出てしまうことでしょう。電車を使えばパリから約2時間、フランクフルトから約3時間半です。ルクセンブルク中央駅には、国内列車と変わらず頻度でフランス、ドイツ、ベルギーとの国際列車が発着しています。
ルクセンブルクは963年に、アルデンヌ家のジークフロイト伯爵が、アルゼット川が作る断崖絶壁に砦を築いたことに始まると伝わります。とは言っても独立した国家とはなれず、長年にわたり周辺の強国に支配され続けました。完全な独立を果たしたのは1890年のことです。現在ルクセンブルク市には、欧州投資銀行をはじめ数多くの金融機関が拠点を構え、ロンドンに次ぐヨーロッパ第2の金融センターとなっています。旧市街のロワイヤル通りの左右には、欧米の一流銀行が勢揃いしています。
銀行が立ち並ぶ通りは旧市街の南西でブリュッセル広場に突き当たります。広場を横切ると南面は断崖絶壁となっています。崖からは眼下に緑あふれるペトリュッス渓谷が広がります。近代都市のど真ん中に高低差45メートル前後の深い渓谷があることに驚かされます。自然の地形が要塞の役割を果たしたことが想像されます。
ロワイヤル通りの先には谷を越え、新市街地に向かうアドルフ橋が架けられています。長さ約84メートル、幅約85メートルのアーチ橋です。樹々の緑がすっぽりと覆う空間に石造りの橋が、直線と曲線を描き絶妙のバランス感を作り上げています。橋の下にはペトリュッス川が穏やかに流れます。
橋の上から北東を眺めると都市空間は、緑の絨毯の上に乗っかっているかのようです。17世紀に建立されたノートルダム寺院の針のように細長い尖塔は、街のどこからでも見えるランドマークになっています。聖堂と渓谷の間は憲法広場として整備されています。中央には永世中立国であったにもかかわらず、第一次世界大戦の犠牲になった人々のための慰霊塔が建ちます。
憲法広場から北に延びるのが、旧市街のメインストリート、シメイ通りです。石畳の道の両側は様々な種類のショップが隙間なく埋めています。市民が集う市庁舎はシメイ通りの東です。庁舎が面するギョーム広場では毎週水曜日と土曜日の午前中に市が立ち、野菜や果物、花で彩られます。
ルクセンブルク市は大規模な町ではありませんが、深い渓谷と緑の森が自然の要塞を築く堅牢な城砦都市なのです。1994年には、ルクセンブルク市、その古い街並みと要塞群としてユネスコ世界遺産に登録されました。
【データ】
施設名:ノートルダム寺院 Cathedrale Notre-Dame
住所:Rue du Curé 30 Luxembourg
開館時間:<日曜日以外>10:000〜12:00,14:00〜17:30;<日曜日>13:00〜17:30