地球上には数知れない民族が暮らしています。異なる習慣をもつ人々が交流することによって新たな文化が産み出されてきました。ところが人の足の行く手を阻む海や山、川が境となり独立した国が形成されました。自然の地形に従えば国境線はジグザグになるものですが、アフリカや中近東では直線となっているところが多くあります。欧米の列強国が地域の地勢を顧みることなく、地図上に引いたラインなのです。日本では新潟や山形県内を走る北緯38度線は朝鮮半島を北と南に分断しています。
第二次世界大戦直後の1950年6月、朝鮮半島では戦争が勃発しました。東西冷戦の軍火が半島の隅から隅を焼き尽くした末、1953年7月に休戦協定が結ばれました。停戦のための会議が開かれたのが、ソウルから北に約50キロ、開城ケソンから南に約10キロの寒村です。互いの軍事行動をやめ、北緯38度線を軍事境界線とし南北2キロ、幅4キロを非武装地帯DMZとしました。この中の800メートル四方の一画が共同警備区域JSAとされ、板門店パンムンジョムと呼ばれています。
板門店の中心に軍事停戦委員会議場が設けられています。休戦協定締結後も、何度となく南北の代表が互いの主張を激しく戦わせてきました。その一方で、人道支援や文化、スポーツ交流によって南北を繋ぐ開かれた場所の役割も担っています。飾り気のない部屋は50人前後ではみ出しそうです。
会議室の中央には8人がけのテーブルが設置されています。テーブルの中世線は38度線で、国連の小さな旗がたてられています。旗の下を這うマイクケーブルは軍事境界線を視覚化しているのです。韓国、北朝鮮の代表者は国境線から等間隔の位置に座り、会議を行うのでしょう。
ライトブルーの会議場は厩舎のようにも見えますが常に兵士が取り囲み、張りつめた緊張感が漲ります。会議などのイベントがあれば、北朝鮮代表団は会議場の北に隣接する板門閣から会議場に入ります。会議場の南には韓国側の施設、自由の家、平和の家が建設されています。
軍服姿の人が必ず視界に入る板門店には個人での立ち入りは厳禁ですが、大韓旅行社や中央高速観光社などが政府認定のツアーを企画しています。エリアのガイドは国連軍兵士です。先ずJSA安保見学館で板門店に関する説明を受けた後、約1時間エリア見学をすることができます。
会議用の施設は現在も公式の行事に使用されていますが、エリアの中には歴史的な事件を静かに物語る場所も残されています。朝鮮戦争の休戦直後に一度だけ往来が許された橋は、帰らざる橋と呼ばれています。北から南あるいは南から北に一度橋を渡ってしまえば、引き返すことも振り返ることも許されません。幅5メートル足らずの小さな橋に人々が列をなすときは来るのでしょうか。
たとえJSAの中にあるとは言っても、南北各々の施設では他方の監視を怠ることはありません。1976年に一本のポプラの木が域内の視界を遮りました。北側の反対に抗って伐採された木の後には、ポプラ事件記念碑が設置されました。また統一公園内には、慰霊塔の他に肉弾10勇士忠勇塔などのオブジェが朝鮮半島での悲劇を生々しく物語っています。
【データ】
施設名：板門店 非武装地帯
住所：京畿道坡州市郡内面，津西面，魚龍里, 一帯
開館時間：月曜日〜土曜日 ＜ガイドツアー＞9:45，13:15，15:15
休み：日曜日，祝日
注意事項：身分証明書要持参，服装に制限あり
大林 等
メーカ勤務の出張とプライベート旅行で渡航した国の数は49になります。各国での 異文化体験は数知れません。カルチャーショックを起爆剤に、各国の歴史や文化に 深く切り込むスタンスを崩すことなく持ち続けています。観光情報から社会、習 慣、宗教、グルメ、アート、民族芸能まで、ジャンルの垣根を超えた海外での経験 を、各種の雑誌やWebサイトなどで発信し続けています。
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