
日本は南北に細長い列島で、その長さは約3000キロです。他の国は全て海の彼方にあるため、国境線に要塞を築くという発想は生まれないでしょう。それが山や川などの地形を利用するとはいっても陸地で接していると、国境線は国防の面で最も重要な意味をもちます。中国歴代の王朝は北方からの遊牧民族の侵入を恐れ、巨大な要塞を作り続けました。紀元前221年に中国を統一した秦の始皇帝は、万里の長城の建造を始めたのです。石造りの壁はその後の王朝にも受け継がれ、現在残る建築物は明代に整備されたものと言われています。東端の老龍頭長城から西端の陽関までの総延長は約9000キロにも及びます。

地上で万里の長城の全景を見るなどできませんが、北京から北の方角に向かうと、東西方向にずれても必ず石の壁にぶつかります。その全てが長城の一部に違いはありません。でも、城砦に立ってより深く中国悠久の歴史を感じたいものです。八達嶺長城は延々と繋がる長城の中でも最も整備され、北京からのアクセスも最高です。

八達嶺長城は、数々の旅行社がオプショナルツアーの訪問先に組み入れています。公共交通機関を利用する場合は、北京北駅から電車、徳勝門駅からバスとなります。ところが電車の場合は運転間間隔が時間によって大きな差があり、30分から2時間のばらつきがあります。バスは10分前後のサイクルなのですが、渋滞に巻き込まれると思わぬタイムロスを生じる危険が潜んでいます。
標高約1015メートルの八達嶺の谷底に設けられた駐車場や入口からは、山の起伏に沿って上下する石の要塞が見えます。何重にも折り重なった石の壁を一本のラインに引き延ばすと約3700メートルにもなるのです。首都北京に近いため、ここから外敵が侵入することは許されません。どのように強力な軍にも突破されないように堅牢な防塁を築いたのです。随所に望楼が設けられているのも、首都近郊の長城に特有のものです。



山裾の入口を入るとルートはふたつに分かれます。北側の山に沿うルートは、比較的なだらかで女坂と呼ばれています。往復約40分で北四楼までを折り返すのが標準コースです。逆に男坂と呼ばれる南のルートは傾斜のきつい階段が続きます。最高点の南六楼までの往復には復約1時間半前後必要です。


体力に自信のない人は、ロープウェイやスライダーなどを利用することができます。ロープウェイで登って、スライダーで下山すると楽な上に効率的かもしれません。

いずれのルートでも観光客が歩くのは石畳の一本道です。疲れたときに行列の脇にそれることはできますが、基本的には列を乱すことなく前の人のスピードに合わせて前進し続けることになります。自然の起伏に忠実な通路の勾配は一定ではありません。女坂も登るに従って傾斜が急になってきます。坂道を歩けるように靴や服装、手荷物の準備をしておくことが大切です。


万里の長城は世界遺産に登録され、中国でも屈指の観光スポットです。毎日、夥しい数の人々が八達嶺長城を訪れます。巨大な要塞の上を綺麗に一列になって歩く姿は、地を這うアリのようにも見えます。2000年近くの歳月を費やして築き上げられた巨大な構造物が、現代の人々を軽く一飲みしているかのようです。


【データ】
施設名:八達嶺長城
住所:延慶県八達嶺鎮関溝北端
Tel:6912-1880
入場時間:<4〜10月>6:30〜19:30,<11〜3月>6:30〜17:30
休み:無休
アクセス:<電車>北京北駅→八達嶺長城(所要時間:1時間〜1時間30分),<バス>徳勝門駅→八達嶺長城(所要時間:1時間30分あまり)