先月、カリフォルニア州サンフランシスコのユニオンスクエアー(Union Square)界隈にある安宿に泊まってみました。宿泊料は税抜きで一泊$57。4つ星以上のホテルだと少なくても$250程度かそれ以上のホテル代がかかるこの界隈で税込みでも料金が約65ドルなのは、それが普通のホテルよりも格安で部屋を提供するホステル(hostel)という宿泊施設の4人部屋だからです。2人部屋、またはダブルベッドの個室を選ぶこともできますが、その場合一泊料金はもう少しかかります。
ホステリング・インターナショナル(Hostelling International)の記事によると、100年以上の歴史を持つユースホステル(Youth Hostel)という宿泊施設の発案者は、ドイツの小学校教師リヒャルド・シルマン(Richard Shirrmann)。1909年にシルマンが、彼の児童のしあわせと健康を願い、彼らが自然の中で過ごせるようにと週末遠足に連れて行き、校舎に持ち込んだ寝具を使って寝泊まりしたことが、どうやら今日のユースホステルの始まりとなったようです。ドイツのアルテナ城(Altena Castle)は最も古いホステルとして知られていますが、当時のシルマンの着想がアルテナ城のホステル経営で具現化されたことが発祥となり、徐々に他の国々に広がり始め、やがて近年世界中に見られるようになる宿泊施設としてのホステルの形態が固まっていったのですね。
HI USAのウェブサイトには、アメリカ20州の50箇所の案内が記載されていますし、ホステルズ・ドット・コム(HOSTELS.com)のウェブサイトでは、世界中33,000以上の施設のリストが紹介されています。
宿泊した「オレンジ・ヴィレッジ・ホステル(Orange Village Hostel)」は、ダウンタウンのユニオンスクエアー界隈のオファレル・ストリートの交通の便が良い所に建っています。
このホステルのウェブサイトを見てみると、「部屋・共有のキッチン・エンターティメントルームやロビーで無料Wi-Fiのサービスが利用可、ブランケット・ベッドリネン・ハンドタオル(バスタオルはありません)付き、ホステル内でスタッフが企画するアクティビティやイベントへの参加可、無料のピザナイト・クラブナイト有り、午前7時から10時までシリアル・ワッフル・オートミール・オレンジジュース・牛乳・コーヒー・新鮮な果物やヨーグルトの朝食付き、ゲスト用のキッチンとダイニングルーム完備、ケーブルテレビやDVDプレーヤー搭載のコミュニティラウンジと洗濯室付き(洗剤は無料)、ロビーの印刷機の利用可、鍵付きのロッカー有り、アイロンとアイロン台の使用可、ヘアードライヤーの無料の貸し出し、ロビーにはツアー情報満載、空港送迎のシャトルサービス有り、エレベーター有り」と謳っており、アメニティが非常に充実しています。
この宿泊料金で朝食だけでもこれほど充実しているなら、それだけでもかなりお得です。ちなみに、隣接するホテルの宿泊料金は、安くても個室は一泊約180ドル。その料金にブレックファーストが含まれるとしても2泊で360ドルですから、ここのホステルの激安ぶりがうかがえます。
早速上へ上がって、気になる寝室の中を覗いてみることにしましょう。
古い建物のロビーの奥のドア付きエレベーターで2階に上がり、細長い廊下を通って寝室のドアを開けてみると、シンプルな部屋の右手にはおそらく最近改装工事を終えたばかりの綺麗なシャワー室兼トイレがあり、左側に鍵付きのロッカーがあります。
部屋の奥の窓を挟んで両側に白と黒のメタル製のバンクベッド(2段ベッド)が置いてあり、スーツケースや大きな鞄類までしまうことができるような奥行のあるワードローブも備えつけてあり、4つに区切られているワードローブの下の段に、機内持ち込みサイズのスーツケースを含むすべての私の所持品を収納することができました。
部屋の中にはテーブルと椅子がないので、自分の空間として使うことができるのはベッドの上だけです。たまたま2段ベッドの上が私の指定席となってしまっていたので、苦笑しながらメタルのラダーを使って自分のベッドに這い上がりシーツとブランケットだけで簡単に寝床を整えたら、次はコンピューターを開いて2段ベッドの上でひと仕事。ベッド脇に小さな棚がついていたのでボトル入りのコーヒーと携帯電話を置くのに便利だと思いましたが、上段を使う場合は、万が一のため蓋のない缶入りの飲み物は置きっぱなしにしない方が良いかもしれません。
ベッドの下にも荷物が置けますが、それは下段に寝る人の特権になるでしょうか。
装飾品が一切ない簡素な部屋ですが、夜遅くまで街の探訪を楽しんだ後、疲れて帰ってきて寝るだけならここで十分。ここに限らずユースホステルなら、相部屋を予約すれば宿泊費を節約して旅の他の出費の予算が増やせる上、気のおけない友達とわいわい(静かに？)パジャマ・パーティを楽しむこともできます。また、隣室に宿泊している人とお喋りする機会があるかもしれませんし、キッチンやエンターティメントルームに下りていけば、世界各国からの旅行者と知り合うきっかけを作ることができるのも、ホステル利用の旅の醍醐味です。
2段ベッドで自分空間を整えたら、次は建物の中を探検します。
ロビーに一旦下りて、チェックインした際に教えていただいた洗濯室、キッチン&ダイニングとエンターティメントルームがある中2階へ行ってみます。
寝室は「寝るためだけの場所」というような印象ですが、キッチンは、もし時間があればぜひそこでお料理してみたくなるような使い勝手がよさそうな広いカウンターがあり必要な道具がすべて揃っている上、とても温かい雰囲気のあるキッチンでした。私は一泊しかしなかった上お腹がすいていなかったので、そこでは翌朝コーヒーを一杯飲んだだけでしたが、キッチンを出た廊下にまで甘いワッフルの匂いが漂っており、他の宿泊客が食事をしている様子からも朝食は充実していると感じました。
建物内をぐるりと見学した後、隣接する雑貨屋兼酒屋へおやつを購入しにいきました。夕方以降、娘と近所のレストランで食事をして2人で歩いて戻ってきたのですが、夜遅かったにもかかわらずこの通りの治安は悪くはなさそうでした。
ホステルを午前11時にチェックアウトした後、スーツケースを含む持ち物全てを奥の収納部屋に無料で預かってもらうことができると知り、手ぶらで街へ出かけることができたのもホステル滞在の嬉しいおまけでした。おかげでこの日はレンタカーもせずに、ケーブルカーと徒歩だけで心行くまでサンフランシスコ市内の観光を楽しむことができたのでした。
私のルームメイトは韓国人とドイツ人の女の子で、3人で少し雑談することができましたが、韓国から旅行中の女の子は、嬉しそうに「ここは料金が安いので少し長めに滞在できるわ。」と言っていました。5日泊まっても300ドルちょっとなので、この界隈の高級ホテルに一泊するより断然安いのは確かです。
早朝、ドイツ人のルームメイトが荷造りをしている音で目が覚めました。
雑音や明かりが眠りを妨げるという人には向いていないかもしれませんが、飛行機のエコノミーのキャビンに10時間以上乗るのが億劫でなく、機内の周囲の雑音もそれほど気にならず、お気に入りの枕や毛布がなくてもぐっすり熟睡できるタイプの人なら、このような相部屋でも大丈夫だと思います。ドイツ人のルームメイトが照明を消して部屋を出て行った後、またすぐに眠ることができましたし、私にとっては、とても快適な居住空間だったことは言うまでもありません。
【データ】
オレンジ・ヴィレッジ・ホステル(Orange Village Hostel)
住所： 411 O'Farrell Street. San Francisco CA 94102
TEL：415-409-4000
FAX：415-409-4010
URL：http://orangevillagehostel.com/services/
ホステルズ・ドット・コム(Hostel.com)
URL：http://www.hostels.com/
HI USA
URL：https://www.hiusa.org/hostels
ホステリング・インターナショナル(Hostelling International)
URL：https://www.hihostels.com/
ホステルの歴史に関する情報
URL：https://www.hiusa.org/about-us/history-of-hostelling#tab1
舞林鳥 恵
80年代後半から日米間を往復する暮らしを始め、現在DCから小一時間の田舎町で夫とのふたり暮らしを満喫しています。カントリーライフの醍醐味をHappyNest in Americaにて配信中。ワシントンDC周辺の観光名所や魅力的な穴場スポットの情報をお届けします。
