2016年8月末にジカ熱 (ジカウイスル感染症) の国内感染例が初めて確認されたシンガポール。その後1週間ほどで感染者数が200人突破するなど、ジカ熱拡大が懸念されています。シンガポール旅行を計画されている方のなかには、不安になっている方もいらっしゃると思います。今回のコラムでは、在住者の視点も含めた、ジカ熱対策についてご案内したいと思います。
まずは最新の情報収集。日本の外務省が出している感染症危険情報や渡航に関する勧告などを旅行前に確認しておくのはもちろん、ジカ熱に関する基礎知識も持っておきたいところです。9月5日現在、外務省はシンガポール全土に対し、渡航に関して「十分注意してください」という「レベル1」の危険情報を発出しています。また、「特に妊娠中の方又は妊娠を予定している方は、流行国・地域への渡航・滞在を可能な限りお控えください」との勧告も。これは、不要不急の渡航を止めるように勧告する「レベル2」よりは低いものです。旅行中に何かあった場合は、在シンガポール日本大使館に連絡・問い合わせることも可能です。(詳細に関するリンクはコラム最後に)
また、シンガポール保健省は、ジカ熱の患者数推移や発生地域などの最新情報を現在のところ毎日公表しています。地元メディアもジカ熱を大きく取り上げているので、国内の様子を知るためにチェックしてみるのもいいかもしれません。TV局「チャンネルニュースアジア (Channel NewsAsia) 」や、最大手の英字新聞 「ザ・ストレーツ・タイムズ (The Straits Times)」のウェブサイトなどで最新情報を得ることができます。
シンガポールに関してひとつ言えるのは、もともとデング熱予防に力を入れていて、普段からベクターコントロール (殺虫剤散布等による蚊の駆除) が各地で行われていることから、市街地には蚊が少ない、ということ。東京などと比べても、刺される頻度が断然低いです。金融街や観光客が集まるオーチャード地区などを歩いても、蚊に刺されることはほとんどありません。筆者の住んでいるマンションでも、殺虫剤散布が毎週一回行われています。近所でデング熱が発生した場合は、環境省の担当者が予告なしに自宅訪問を行い、家のなかに不要な水たまりがないかチェックする徹底ぶり。ジカ熱発生を受けて、現在シンガポール全土でアウトリーチ活動が行われていて、「毎日鉢植えの受け皿の水を捨てる」「毎日花瓶の水をかえる」など、不要な水たまりの除去を呼び掛けています。
ただ、一年中30度を超える暑さが続き、雨の多いシンガポールは、蚊が増えやすい環境にあります。さすがに、シンガポール動物園や植物園など緑が多い場所では、蚊に刺されることも多いです。ゴルフ場なども気をつけた方がいいと思います。
ジカウイルス感染症はデング熱と同様、蚊を介して感染します。日本政府は、シンガポールなどの流行地域に旅する場合には、長袖シャツなどを着てできるだけ肌を露出せず、虫よけ剤を使用するなど、蚊に刺されないよう注意を呼びかけています。
さて、実際シンガポールで生活している人はどうしているのでしょうか。ジカ熱発生地域付近に住む方や妊婦の方は特に用心されていると思いますが、筆者も含め、いつも通り半袖やサンダルで外出する人はまだまだ多いです。ただ、地元メディアには、蚊が多そうな場所への外出を控える人が出ていることや、ポケモンGOをする人達が以前より慎重になっているとの報道もあります。
もしジカ熱対策として旅行中に長袖が欲しくなっても、ご心配なく。常夏のシンガポールですが、9月ごろから (日本でいう秋冬シーズン) は、ユニクロなどの多くの店舗で秋冬衣類が売っています。また、シンガポールは室内の冷房がきついので、カーディガンなども一年中店頭に並んでいて、長袖は簡単に現地調達できます。
ただジカ熱発生のニュースを受けて、現在虫除けグッズが売り切れているドラッグストアも多くなっています。一時的なこととは思いますが、念のため日本から虫除けグッズを持参されることをおすすめします。もしシンガポールで購入する場合は、タイガーバームの虫除けシリーズがオススメです。特に虫除けパッチは、Deet という虫よけ剤などによく使われる化合物も入っていないので小さな子供にも安心です。そして、長年デング熱と戦うシンガポール発のブランドというだけあって、よく効きそうな香り。そのほか、主なドラッグストアで購入可能なドイツ製の虫除けスプレーは、効果もあり香りもきつすぎないので、筆者も数年愛用しています。
ジカ熱は、デング熱よりも症状は軽く、感染しても気付きにくいこともあります。 もしジカ熱流行地域に指定された国で蚊に刺され、数日後に、軽度の発熱、発疹、結膜炎、関節痛、筋肉痛、倦怠感、頭痛等の症状が見られた場合は、医療機関を受診するよう日本政府は呼びかけています。デング熱と長年向き合っているシンガポールは、感染症に関するリサーチや医療体制がしっかりしています。また、シンガポール国内には、日本語が通じる日系クリニックも多いので、いざという時に安心です。しかし、医療費は日本と比べると高く、病院でドクターに診てもらうだけで1万円以上かかることもよくあるので、海外旅行保険などを購入するのもひとつの考え方かもしれません。
シンガポール旅行は決行したいけど、念のため出来るだけ屋内で遊びたいという方には、セントーサ島の水族館「シー・アクアリウム (S.E.A. Aquarium)」やシンガポール国立博物館やプラナカン博物館などがいいかもしれません。小さなお子さん連れには、マリーナベイサンズ横にある「アート科学博物館 (ArtScience Museum)」の常設展示「フューチャーワールド (Future World)」がオススメです。日本発 teamLab による最先端のデジタルアートで、子供も大人も楽しめる内容になっています。9月16日〜18日に行われるF1 (Formula One) シンガポール・グランプリは現在のところ通常どおり開催される予定です。アジア唯一の市街地レース、またF1史上初の夜間レースとしても人気が高く、毎年20万人が観戦する一大イベントですが、今年はジカ熱発生で参加者や観光客数へ影響が出るのではと懸念されています。
せっかく計画したシンガポール旅行。出発する前に、十分な対策と情報収集をして、不安なく旅行を楽しみたいですよね。下記のデータ欄にあるウェブサイトなども、ぜひ参考にしてみてください。
【データ】
日本外務省の海外安全ホームページ
URL:https://www.anzen.mofa.go.jp/
厚生労働省 ジカウイスル感染症に関するQ&A
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000109899.html
政府広報オンライン ジカ熱予防のポイント
URL:https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201605/2.html
シンガポール保健省
URL:https://www.moh.gov.sg/
ザ・ストレーツ・タイムズ (The Straits Times)
URL:https://www.straitstimes.com/singapore
チャンネルニュースアジア (Channel NewsAsia)
URL:https://www.channelnewsasia.com/news/international
在シンガポール日本国大使館
住所:16 Nassim Road, Singapore 258390
Tel:+65-6235-8855
URL:https://www.sg.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html
北野 洋子
2010年末よりシンガポール在住。元ロイター通信記者。
旅先では現地の人の生活を見るのが好きで、シンガポールでもホーカーセンターやローカル店での小さな発見を日々楽しむ。年間パスで何度も通うほどシンガポール動物園がお気に入り。