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ランチタイムに煙の誘惑 〜国道44号線と豚バラ肉のコチュジャン焼き

   
八田 靖史
八田 靖史
 
韓国の交通案内標識。青丸の数字は国道44号線を指し示している

韓国における道路の案内標識。レンタカーを借りるでもなければ、観光客の立場だとあまりしげしげと眺めることもありません。ただ、あえてこの写真を撮ったのには意味があり、このシンプルな案内標識には、これから語る料理の背景がしっかり詰まっているのです。まずは英語表記もありますので、じっくり眺めていただければと思います。注目すべきは左側のいちばん上にある「Seoul(ソウル)」の文字と、左下の「Food Complex(飲食店街)」。そして右側にある「sokcho(束草)」の文字。そして、ソウルから束草へと向かう道路が国道44号線であるということが示されています。

洪川は自然豊かな山林地域で韓国の自治体ではもっとも面積が広い

こちらがその国道44号線。写真左手がソウルで、右手が束草。束草というのは東海岸に面した港町で、観光地としても高い人気を誇ります。最近では新たに高速道路も開通していますが、ソウルから東海岸を目指す人たちにとって国道44号線は定番ルートのひとつでした。そして、この写真を撮ったのは江原道の洪川(ホンチョン)という町ですが、そこに先ほどのFood Complexがあります。まだ、交通事情がさほどよくなかった頃、ソウルを朝出発すると、ちょうどこの洪川あたりで昼食どきを迎えたのだとか。このへんで何か食べるところはないかな、と思っているところへ折よく登場するのが……。

洪川名物のファログイ。江原道は上質の炭を生産する地域でもある

洪川名物のファログイ。ファロが七輪のことで、グイは焼き物の総称。特製のコチュジャンダレで味付けをした豚バラ肉の七輪焼きがをファログイと呼んでいます。あるいは洪川を代表する名物ということから、地名を冠して洪川ファログイとも呼ばれますね。1980年代の半ば頃から店が増え始め、現在は国道44号線に沿って6軒ほどの専門店が集まっています。

注文は2人前400gでW2万4000(約2200円)から

この料理のキモは何よりもタレ。元祖格の「ヤンジマルファログイ」では、コチュジャンに果物、野菜、砂糖、醤油などを混ぜ合わせ、こってり濃厚でありつつも、さらりとした後味に仕上げています。このタレを豚バラ肉と絡めて……。

豚バラ肉の脂がぽたぽた落ちて白い煙がジュジュッと立ちのぼる

七輪で網焼きにしていきます。コチュジャンのタレは焦げやすいので、何度もひっくり返しながら焼くのがポイントとか。

豚バラ肉に絡めたコチュジャンのタレは辛さよりも甘味を感じる

しっかり焼きあがったら、サンチュ、エゴマの葉で包み、大口開けてガブリ。噛み締めるとまず立ちのぼってくるのが炭火の香り。これがふわっと鼻から抜けるとともに、柔らかな豚肉の味わいが広がっていきます。薬味としてニンニクや青唐辛子を加えてもいいですし、エゴマの粉がたっぷり入った香ばしいパジョリ(ネギの和え物)を合わせてもたいへん美味です。

特製のニラソース。生のニラとタマネギが豚の脂をさっぱりさせる

あるいは特製のニラソースと絡めてもいいですね。こってりとした豚バラ肉の脂が中和されてさっぱりと味わえるのが魅力。あるいはこのニラソースに絡めたうえで、サンチュ、エゴマの葉に包んでもまた印象が変わります。

ツルニンジンの和え物。別途追加注文でW5000(約460円)

そして、さらに美味しく食べるなら、こちらのチョプシトドク(ツルニンジンの和え物)を別途頼んでおくのもおすすめです。洪川が属する江原道という地域は、ツルニンジンの名産地。寸の詰まったゴボウというか、高麗人参にも似た見た目の根菜ですが、滋養強壮成分のサポニンを多く含んだ栄養価の高い食材です。これをやはり甘辛いタレに絡めて、豚肉と一緒に焼いて食べると、やや繊維質ながらもジャキジャキとした食感が絶好のアクセントに。高麗人参にも似た特有の風味も合わさって、より重層的な味わいを楽しむことができます。ツルニンジン焼きといえば、それ一品でも主役になれる料理ですから、なんとも贅沢な名脇役といえましょう。

ヤンジマルファログイ。ハイシーズンの週末は1時間待ちにもなる

こちらがその「ヤンジマルファログイ」。1986年の創業時には牛舎を利用して営業を始めたと言いますが、いまではこんなにも立派な店となりました。2階席も含めて464席という大型店舗。それでも行楽シーズンである1月と8月には行列ができるほどとか。ソウルから東海岸を目指す人たちのみならず、近隣の春川(チュンチョン)や、横城(フェンソン)を訪れる人たちも、わざわざこの洪川へ立ち寄ってファログイを食べていくそうです。

そばコーヒー。ヤカンから紙コップについで味わう。1人1杯まで

たっぷり食べて満腹になったら、入口付近にあるこのヤカンを目指すのも忘れずに。デザートがわりに用意された、とろりと甘いそばコーヒーです。江原道といえば、そばの名産地でもあるんですね。ご当地を感じさせる食後のお楽しみであり、また1杯につき100ウォン(約10円)との値段は、恵まれない人たちへの寄付金として利用する意味合いもあるそうです。お支払いは隣に用意された豚の貯金箱へどうぞ。

【データ】
店名:ヤンジマルファログイ(양지말 화로구이)
住所:江原道洪川郡洪川邑ヤンジマルキル17-4(下吾安里631-3)
住所:강원도 홍천군 홍천읍 양지말길 17-4(하오안리 631-3)
Tel:033-435-7533

八田 靖史

八田 靖史
1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。

    

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