旧市庁舎と最高裁判所を改築したスタイリッシュな建物、ナショナルギャラリー。その中にある、プラナカン料理の店が、ナショナルキッチン・バイ・ヴァイオレット・オン(National Kitchen by Violet Oon)です。はるか昔にシンガポールに渡ってきた、主に中華系の移民の男性と、地元マレー系の女性が結婚して生まれたのが「プラナカン(「その土地生まれの子」という意味)」で、シンガポールを代表する食文化を生み出しました。そんなプラナカンの血を引く、シンガポールの女性料理研究家、ヴァイオレットさんの料理が楽しめるお店ですが、この度、人気のハイティーをスタートしました! シンガポールに来たら一度は訪れたいハイティー、アフタヌーンティー。シンガポールでは、通常ハイティーは肉・魚料理などを含めたビュッフェスタイルのものが多いですが、こちらは、アフタヌーンティー風の三段トレーが出てきます。(ですので、お店でのメニュー名はハイティーですが、タイトルはアフタヌーンティーとしました)クラッシック雰囲気あふれる店内、窓際の席からはマリーナベイサンズを望めます。お茶は、月ごとに変わり、3種類から選ぶことができます。(お茶はお代わり自由ですが、茶葉の変更はできません)。この日は、マサラティー、アーモンド、レモングラスカモミールの茶葉でした。私はスパイスの効いたマサラティーを選びました。 まず、三段トレーの一番上には、甘いものが。通常は、西洋風のスイーツが並ぶところですが、こちらはすべて、プラナカン料理などのシンガポールの料理をアレンジしたもの。「シンガポールの食文化の伝統は、どんどん消えて行ってしまっている。だからこそ、提供の仕方やアレンジは変えても、根本的なソースの作り方などの部分は変えていないのです」とヴァイオレットさん。まず、中央のグラスに入っているのは、クエ・バン・カー(Kueh Beng Kah)タピオカケーキをココナッツクリームに漬け込み、グラメラカと呼ばれる黒砂糖のようなパームシュガーとココナッツミルクと共にいただきます。プディングのような印象の一皿です。そして、右上から時計回りに、ケトゥリ・パイ(Keturi Pie)シトラスのカードをバタークラストの上に乗せ、パパイヤとカラマンシーと呼ばれるライムの一種のコンポート、クロテッドクリームと合わせたもの。 クエ・ラピス・レギット(Kueh Lapis Legit)クエ・ラピスと呼ばれるものは色々ありますが、基本的にレイヤーになったケーキをさします。こちらはたっぷりバターが入ったケーキで、しっとりとしたバームクーヘンのような、しっとりとした味わい。一方、クエ・ラピス・サゴ(Kueh Lapis Sago)は、パンダンリーフで香りをつけたりと、様々な色のタピオカをレイヤード仕上げにしてあります。トップに乗ったごく小さなタピオカのプチプチの食感が楽しく仕上がっています。ロティ・ジャラ・ウィズ・グラメラカ(Roti Jala with Gula Melka and Banana Sauce)は、ロティ・ジャラ、または英語でレース・パンケーキと呼ばれる、プラナカン料理の伝統的なパンケーキをグラメラカとバナナ、ココナッツのソースで仕上げたもの。 ロティ・ジャラ・ウィズ・グラメラカ(Roti Jala with Gula Melka and Banana Sauce)は、ロティ・ジャラ、または英語でレース・パンケーキと呼ばれる、プラナカン料理の伝統的なパンケーキをグラメラカとバナナ、ココナッツのソースで仕上げたもの。一方、日本の菱餅のような、クエ・ラピス・サゴ(Kueh Lapis Sago)は、パンダンリーフで香りをつけたりと、様々な色のタピオカをレイヤード仕上げにしてあります。トップに乗ったごく小さなタピオカのプチプチの食感が楽しく仕上がっています。 そして、2段目は、左上から、クエ・パイティー(Kueh Pie Tee)伝統的な帽子型のスナック。筍とターニップと呼ばれる、蕪のような形の野菜を海老のビスクに漬け込み、仕上げに海老を飾ったもの。甘すぎず、カブなどの旨みが堪能できるフィリング、そして酢漬けの唐辛子がアクセントになっています。ブアクルアクロスティーニ(Buah Keulak Crostini)ブアクルア(別名ブラックナッツ)と呼ばれる伝統的なプラナカン料理に使われる木の実を使ったペーストに海老の身を混ぜ、クロスティーニの上に乗せたもの。そのままで食べると有毒なことから、数日間水にさらしたり、土に埋めたりして毒抜きをする必要があり、手間がかかることから、家庭ではほとんど使われなくなったブアクルア。こちらは、シナモンのような、カカオのような印象もある大地の香りがしっかりあり、ほのかに唐辛子のスパイス感もある本物の味。 ナシ・クニング・セルンディン(Nasi Kuning Serunding)ターメリックに漬け込んだもち米に、スパイスを加えてサクサクに揚げたココナッツフレークをトッピングしたもので、まるで南国風のココナッツカレーを一口でいただいているような印象。手前が、オタ・クロスティーニ(Otak Crostini)オタオタと呼ばれるココナッツカレー風味の魚のすり身を、クロスティーニ生地の上に乗せたもの。元々、オタオタはココナッツの味がしますが、更にその上にココナッツクリームをかけたアレンジがフレッシュな印象です。 3段目が、プルド・ビーフ・サンバル・パオ(Pulled Beef Sambal Pao)じっくりと煮込んだ牛肉を細かく裂き、サンバルと呼ばれる伝統的なチリソースと一緒に、中華風の蒸しパンにはさんだもの。中国風のスパイスの効いた味は、日本人にも食べやすい味です。プラウン・アンド・チキン・ボスタルド・サンドイッチ(Prawn and Chichken Bostardo Sandwich)スパイスを加えた海老と鶏肉のサンドイッチで、周りに巻いてあるキュウリがおしゃれです。すべてのメニューがシンガポールらしさあふれるもの。時間がなくて、ローカルフードを食べる時間がない!または、ホーカーの雰囲気が苦手、という方にも、気軽にお勧めできます。 また、更に追加でいろいろと頼めるのがここのハイティーのいいところ。元々プラナカン料理でもある、ココナッツ味のピリ辛麺、ラクサ。通常メニューでも人気のドライラクサが小さいポーション(S$7)で提供されたり、また、「ナショナル」キッチンという名前通り、プラナカン料理だけでなく、インド系やマレー系の、フィッシュヘッドカレーやサテなどの料理も提供しているのも魅力です。そんな食文化が混ざり合ったシンガポールらしいオリジナル料理が、カリカリのプラタ(Prata、インド風パンケーキ)の上に、プラナカン料理のフィリングが乗っている、オリジナルにアレンジしたロティ・プラタ、その名もロティ・ヴァイオレット(Roti Violet、各S$14)。 まず、クリスピー・スパイシー・ツナ・ワラワラ(Crispy Spicy Tuna Wala Wala)は、マグロの身を時間をかけてスパイスやマスタードシードなどの調味料と共にじっくりと炒め、相性の良いアボカドなどと一緒に、揚げたカレーリーフを飾ったもの。甘辛いマグロの身と、タコスのイメージで作ったというプラタは、カリカリでピザのような印象もあります。インド料理のアレンジメニューですが、フィリングはプラナカンの伝統の手法を守っていて、マグロの身は時間をかけて、少しずつ油を足して炒めていているのだそう。様々なスパイスの複雑な香りがありつつ、一体感があるのは、そのせいかも知れません。「料理はちゃんと手順を踏むと時間がかかるもの。だけれど、それも含めてきちんと守っていかなくては。日本では、伝統を守る意識が高い人が多いから、どんどんモダンなものに挑戦してもいいと思う。だけれども、シンガポールでは、人々の興味が伝統に向いておらず、伝統的な手法は忘れかけられているから、尚更その手法も含めて残していかなくてはと思うのよ」とヴァイオレットさん。 そして、チックピー・マサラ(Chickpea Masala)は、ひよこ豆とコリアンダー入りのマサラソース、マイルドでスパイシーなトマトのチャツネと合わせたもの。ひよこ豆のペーストに、太陽をいっぱいに浴びたトマトの濃厚な味わい、紫キャベツのシャキシャキとした食感に、エスニックなカレーリーフの香りが際立ちます。 甘いものも追加でオーダーできます。パイナップルやパパイヤ、マンゴー、人参にピスタチオなどがたっぷり詰まった、ヴァイオレット・オンズ・シンガポール・フルーツ・ケーキ(Violet Oon's Singapore Fruit Cake、S$13)は、南国のフルーツを詰め込んだしっとりとしたフルーツケーキ。 もっとローカルなものを試したいという方には、タピオカで作ったクエ風のケーキ、クエ・コ・スイ(Kueh Ko Sui、シンガポール風コーヒー、コピ(Kopi)とセットでS$12)がおすすめ。ほんの少し酸味があるココナッツ餅のような印象で、グラメラカ入りの茶色と、パンダンのしぼり汁を使った緑色の二種類があります。「料理には、本にも書いていなくて、誰も教えてくれない当たり前の文化がある。例えばね、鶏肉ひとつ茹でるのでも、フランスなら水から茹でるし、中国なら煮立ったお湯で茹でる。味も食感も異なるけれど、それはそれぞれの文化で正しくて、どちらが良いと比べるものではないの。それを含めての料理なのよ。そういった細かい部分も含めて、プラナカンの食文化を残していきたいと思っているわ」プラナカンの女性として、祖先が築いてきた食文化そのものを守りたい思いが伝わる言葉でした。 一人当たりS$28(2人以上の注文)で、目にも口にも嬉しい料理だけでなく、美しいロケーションや、ソファ席もあり、ゆったりとした雰囲気を楽しめると考えると、シンガポールにしてはかなりお手頃価格。時間は、午後3時から5時までです。チリクラブをはさんだマントウ(S$15)や、ロジャック(S$7)などの料理もそろっていて、洗練されたシンガポール料理をいろいろつまみたい、というシチュエーションにもぴったり。シンガポールの伝統を感じられるハイティー、ぜひ気軽に立ち寄ってみてくださいね! <DATA> ■ National Kitchen by Violet Oon(ナショナルキッチン・バイ・ヴァイオレット・オン) 営業時間:ランチ 12:00〜15:00、ハイティー 15:00〜17:00、ディナー 18:00〜23:00、無休 住所:1 St. Andrew’s Road, #02–01, National Gallery Singapore (City Hall Wing) Singapore 178957 電話:+65 9834 9935 アクセス:MRTシティーホール駅徒歩6分 仲山 今日子元テレビ山梨、テレビ神奈川アナウンサー。現在はフリーアナウンサー、ディレクター、ライターとしてお仕事を受けています。シンガポールのテレビ局J Food & Culture TV 勤務、All Aboutシンガポールガイド。ブログ。趣味は海外秘境旅行&食べ歩き、現在約40カ国更新中。