台北から車で約1時間、今では超人気スポットとなった九份(きゅうふん)ですが、ほとんどの人が旅行会社のオプショナルツアーで訪問し、2時間から3時間程度の滞在で帰って行きます。長い商店街(基山街)と赤い提灯が並ぶ階段(豎崎路)を見れば、基本的にはOKなのですが、もう少しゆっくり滞在して散策の範囲を広げてみると、かつて金鉱の街として栄えたこの街の素朴でどこか懐かしい情景に触れることができます。 「千と千尋の神隠し」のモデルとなったと言われる豎崎路の赤い提灯が並ぶ階段を、九戸茶語というレストランがある広場まで降りて、軽便路という細い道を左に曲がります。しばらく行くと、右手には海が左手の崖の上には、金鉱の様子を描いたレリーフが見えます。 さらにしばらく歩くと、ちょっとした公園のような場所に出ます。 この公園の奥にあるのが、「五番坑」です。かつての金を掘った坑道の跡で、そのままの状態で残されています。 入口には鉄の格子がはめられていますが、奥の様子を見ることができます。明りはありませんので真っ暗ですが、フラッシュを使って撮影したのが上の写真です。 五番坑からさらに軽便路を進むと、道は右側にカーブします。このあたりまで来ると、観光客の姿を目にすることは少なくなります。風情のある田舎の風景を眺めながら、さらに進んで行きます。 途中、軽便路は左にカーブし、後程紹介するトンネルに差し掛かりますが、カーブの手前で細い道が分かれています。その道は、住宅の横を抜けどこまでも続くようにも見える階段に差し掛かります。遠くにお寺が見えて、幻想的な風景です。 この階段の上のところで、右を見ると九份の街並みを一望できます。山肌に張り付くように広がる街の様子が良くわかります。 左を見ると、海が見えます。基隆港周辺の海ですが、複雑な海岸線の様子がよくわかります。 軽便路が左に折れる手前のあたりに、頌徳公園というひっそりとした公園があります。石碑がひとつ立っているだけですが、基山街や豎崎路の喧騒からは想像もできないほど静かです。 軽便路が左に折れるとすぐトンネルがあります。先ほどから出てくるこの軽便路という道ですが、九份が金鉱山として栄えていたころ、鉱石を搬出するために軽便鉄路という鉄道が走っていました。この「九份山磅坑口」というトンネルは、この鉄道のために掘られたトンネルで、出入口はアーチ型に積み石がされていますが、内部は岩を手掘りしたと思われる荒削りのままになっています。 ここからは、九份の街を上に登って行くルートをご紹介します。長い商店街「基山街」を入口からずっと歩いて行くと、最後の方に十字路があり、右の下りの階段を行くと有名な豎崎路(千と千尋の神隠しのモデルになったと言われる赤い提灯が連なる階段)で、左の登り階段を行くとすぐに「泥人呉」という奇妙な建物があります。これは、粘土で作られた様々なお面を展示する展示館で、少々気持ちの悪いお面が軒先にたくさん飾られています。 泥人呉からさらに階段を登ると、九份国小とう小学校に突き当たります。小学校の前で左に曲がりさらに上り坂を登って行きます。しばらく行くと、「聖明宮」というお寺の屋根越しに、九份の街と海岸線が見える絶景ポイントに到着します。天気がいい日はおすすめのスポットです。 絶景を見たら、あえて元来た路を戻るのではなく、細い路地を通って下に降りてみましょう。この辺りは、細い道や階段が迷路のように入り組んでいます。鄙びた景色を楽しみながら、ちょっとした探検気分で歩いてみましょう。 ちょっと迷いますが、下に向かって歩いて行けば必ず基山街のどこかに行きあたります。えっ!こんなところに出てくるの?とちょっと不思議な感じがします。 今回ご紹介したようなディープな九份を楽しむには、滞在時間が限られているオプショナルツアーに参加するのではなく、鉄道やバスを利用して朝九份に入り終日滞在するか、九份内の民宿に宿泊する方法もあります。宿泊すると、早朝の九份を楽しむことができるのでおすすめです。朝9時過ぎから夜の8時ぐらいまで多くの観光客でごった返している豎崎路の階段も、早朝は誰もおらずひっそりとしています。この景色を独り占めできるのは、ちょっとした快感です。 最後におまけですが、九份は「岩合光明の世界猫歩き」台湾編でも紹介された、猫出没スポットです。観光客が多い場所では、あまりお目にかかれませんが、ちょっと奥まった場所に行くとたくさん猫がいます。猫好きの人は、ディープな九份巡りをしながら猫探しも楽しめます。 九份へは、台北駅から鉄道で「瑞芳」まで行き(約40分・76元)、そこからバスで15分程度(15元)で到着します。またMRT「忠孝復興駅」前のバス停から、「金瓜石」行きのバスに乗ると1時間15分ほどで、九份に到着します。運賃は102元。 阿部 吾郎24年間旅行会社に勤務した後、2013年に独立し「トラベルガイド株式会社」を設立。「人がそこに行きたくなる写真」をテーマに国内外で写真撮影を行っている。同社が運営するマレーシアの旅行情報サイト、トラベルガイド・マレーシアにも自身で撮影した写真が多数使われている。その他、旅行写真素材の販売、旅行記事の執筆、旅行会社へのコンサルティングなどを手掛る。最近はマレーシアに年4~5回程度渡航。その他、旅行会社時代の経験も含め得意な方面は、台湾、香港、マカオ、シンガポール、アイスランドなど。