ブルックランズ・ミュージアムは、1900年初頭に出来たモーターレース・サーキット跡地にあります。だから建物やガレージなども当時のままだったり、出来る限りその当時に復元されています。敷地内には、1920年代〜1930年代にレーシング界のスーパースターとして君臨した、マルコム・キャンベルのガレージも残っていました。 高価なクラシック・カーの数々は、うやうやしく鎮座しているのではなくあくまでもガレージ風。これらの車輌の中には時々ロンドン〜ブライトンのクラシックカー・レースに出場いるものもあり、手塩をかけてメンテナンスされているのが分ります。 ところで、当時はもちろんコンピューターなんかない時代。その頃のクルマの設計なんていったら、それこそ職人技=匠の領域だったようです。 鉛筆、定規、分度器・・・こんな道具だけでクルマや部品を設計していたなんて、今では想像できないですよね! 創設者のヒュー・ロック・キングという人は、この地域の富裕な大地主。彼の妻エセルも、夫の壮大な夢の実現を大いにサポートしました。彼はイタリアのタルガ・フロリオやフランスのグラン・プリのように一般道路を使って行われるレースを観て、いたく感銘・・・でもその頃のイギリスには「制限速度・時速20マイル厳守」という法律が障害となって、そういう市道レースを開催できない事に苛立っていたそうです。だって時速20マイル(時速32キロメートル)といえば、自転車でも速い人はそれくらい出る速度ですからね。 一般道路でやっちゃダメなら、専用サーキットを作れば問題ないだろう!そして我が英国にも、イタリアやフランスで見たようなエキサイティングなモーター・スポーツを開花させてやるぞ!という志で、本当に作っちゃった人。それがヒュー・ロック・キングなのです。 もちろん、クルマやレース場の跡地を中心に構成されている、このミュージアムですが・・・私がここで強く感じたのは、その頃の時代の空気みたいなもの。 そして何よりも、私財を投じて世界初のモーターレース用サーキットを造った、ロック・キング夫妻の情熱に心を打たれました。子供を授からなかった夫妻ですが、大きな遺産を世に残したんだからご立派! 二人ともレース界を始め多くの人々に愛され尊敬され、ヒューは享年78歳、妻エセルは92歳の長寿でそれぞれこの世を去ったそうです。そんなブルックランズの終焉は、1939年に勃発した第二次世界大戦と共にやってきます。戦時中ここは軍用機の生産工場となり、また敵国の爆撃でサーキットの一部も破損してしまいました。 そしてブルックランズにカー・レースが戻る事は、二度とありませんでした。【データ】ブルックランズ・ミュージアム(Brooklands Museum)住所:Brooklands Road, Weybridge, Surrey KT13 0QNTel:01932 857381 (内線221)営業時間:夏 AM10:00〜PM5:00冬 AM10:00〜PM4:00URL:http://www.brooklandsmuseum.com/ 小野 雅子ロンドン西郊外に住む会社員、職場はヒースロー空港周辺です。在英20年以上の経験値を発揮して、初めてイギリスへいらっしゃる方にも興味深く分かりやすいロンドン観光&生活ガイドとしてお役に立てれば…と思います。個人ブログ「ロンパラ!」はこちら♪