日常の中にレジャーがあるのか、レジャーの中に日常があるのか。バンフはそういったことを考えさせられる町である。都会の雑踏とは違ってこの町は山がある。湖がある。川がある。そして温泉がある。今からハイキングに行こうとか、スキーに行こうとか普段の会話がこんな感じである。少し前のことである。私は還暦を過ぎた年配の友人にカヌーに誘われた。「えっ、今からですか。もう3時ですよ。」友人はそれがどうしたといわんばかりに笑顔で「ようだよ」と答えた。学生時代、運動部で体を鍛え、様々なアクティビティに挑戦してきたが、私はどちらかと言えばウォータースポーツは苦手である。カヌーなどやったことがないしやってみようと思ったこともない。不安に駆られながらも半ば強引にカヌーに連れて行かれた。後から聞くと友人は60代ということもあり一人で漕ぐには体力がないから一緒に行く人を探していたというわけだ。 てっきりカヌーをレンタルするものと思っていた私はさらに驚くことになった。友人はマイカヌーを持っていてそれを家から歩いて一緒に川まで運ぶのだと言う。どこまで行くかわからなかったがとりあえず指示に従いカヌーにタイヤを装着し、2人で押して運ぶのだ。30分くらい歩いただろうか。メイン通りのバンフアベニューから西に数ブロック行った所にバンフパークロッジ(Banff Park Lodge Resort Hotel & Conference Centre)という日本からの観光客も多く宿泊するホテルがある。そこの角、ウルフストリートをまっすぐ行くとすぐにカヌーのレンタル小屋が見えてくる。ボウ川とエコー川のちょうど分岐点である。ここが少し浅瀬になっておりカヌーの乗降場所となっている。救命胴衣装着。いよいよカヌーに乗り込もうとしても川面に揺られているせいか、乗り込むのも意外に難しい。 乗ってみるとすぐにわかるのだが、カヌーの舵取りは思ったより難しい。きちっとこがないとまっすぐ進まないのだ。エコー川と日本語では言うことが多いのだが、英語表記にするとEcho Creek。つまり小川なのだ。川幅が狭いためすぐに川岸に向かってしまう。力任せに漕いでも体力を消耗するだけで意味がない。それでもなんとかゆっくり前に進むと動物達がお出迎え。 と言っても動物を堪能する余裕など全くない。もう腕はパンパン、息はハーハー、汗だくだく。果たしてエコー川を越えて本当にバーミリオン湖までたどり着けるのか、ただただそのことだけを考えてひたすら漕ぐのだ。 漕ぎだしてからどのくらいの時間が経っただろうか。特に時間を図っていたわけではないので正確な時間は分からない。ただひたすら漕いだ時間は感覚的には30分くらいだろうか。普段はハイウェイ沿いのビューポイントから見下ろすバーミリオン湖が今、カヌーから少し手を伸ばすと水に触れることができる。湖面に浮いて遠くを見渡すと、見慣れたランドル山が見える。疲れ切った体もこの景色の前では吹き飛んで、しばしの休息が次への鋭気を与えてくれた。そう、これから来たルートをもう一度漕がなければならないのだ。【データ】バーミリオンレイクス / バーミリオン湖(Vermilion Lakes)バーミリオン湖は第1、第2、第3湖があるため英語表記は複数形バンフ・カヌー・クラブ(Banff Canoe Club) - カヌーのレンタルショップ住所:Corner of Wolf Street and Bow Ave, Banff電話:403-762-5005URL:http://banffcanoeclub.com/Home.aspx今シーズンは5月14日オープン 白柿 佳一アメリカでマスコミ学の修士号を取得。在学中のインターンでニュース映像カメラマンを経験。帰国後、テレビ通販チャンネルのカメラマンとして11年勤務。2012年3月、アラフォーオヤジが妻子を連れてカナダ移住を実現。現在、カルガリー、バンフを中心にビデオカメラマンとして活動しながら、地元日系情報誌カルガリー・ウォーカーにもコラムを執筆中。