普段の生活の中で期待を大きく膨らませながらも当てが外れてしまったという経験をもたない人はいないでしょう。数多くの観光スポットを巡り歩く旅行でも、訪問地の中に期待外れに終わる場所もありえるかもしれません。その代表例なのでしょうか。世界三大がっかりという用語のもとに、3つの観光名所が選び出されています。
堂々のランクインを果たしているのが、ブリュッセルの小便小僧、コペンハーゲンの人魚姫、シンガポールのマーライオンです。選考基準が定かではありませんが、いずれも大勢の観光客が訪れる人気スポットであることに違いはありません。中でもマーライオンは世界三大がっかりに選ばれた理由を想像することが極めて難しいのです。
マーライオンが最初にお目見えしたのは1972年、エスプラネード近くのシンガポール川の河口でした。ヴァン・クリーフ水族館に務めながらシンガポールの土産物委員会のメンバーでもあったフレイザー・ブラナーによってデザインされました。国名の中のシンガ、ライオンを上半身とし、下半身は港町をイメージする魚の姿をしています。長いたてがみに扇形のウロコが、白一色でバランスよくアレンジされています。
当初は正面から見ることができていた高さ8.6メートル、重さ70トンの像は、1997年に架橋されたエスプラネード橋が視界を遮るようになりました。そこで、貴重な観光資源を活かすために、2002年にマーリオンの引越しが行われました。像は地下鉄MRTラッフルズ・プレイス駅から徒歩約10分のマリーナ・ベイ沿いに移され、周囲はマーライオン・パークとして整備されたのです。像の左下からは湾に向かって桟橋が設けられ、マーライオンの姿を360度全ての角度から見ることができるようになりました。
鋭い牙をのぞかせる口からはマリーナ・ベイに向かって水を勢いよく吐き出しています。マーライオンの背中側から見ると、水しぶきにユニークな形をした建物が重なります。3つの高層ビルの屋上が船の形をした水平建築で繋がるマリーナ・ベイ・サンズの外観には、誰もがあっけにとられてしまいます。最上部の空中庭園サンズ・スカイパークに設置されたインフィニティプールからは200メートル真下に海が見えるのです。2010年のオープン以来、シンガポール屈指の観光スポットとなりましたが、全景を見ることができる場所は多くはありません。マーライオン・パークは、これを障害物なく真正面から見ることが絶好のポジションにあるのです。マリーナ・ベイ・サンズとマーライオン・パークを繋ぐ水上タクシーも運航されています。
マーライオン・パークからは海に向かって開放感に満ちた眺望が広がりますが、左右さらには背後にも視線を向けることを忘れないようにしたいものです。一度は像の視覚を遮ったエスプラネード橋の先にはドリアンのような形をした建物があります。エスプラネード・シアターズの外壁パネルは、熱帯の厳しい陽射しを遮断しながら果実の皮の棘を連想させます。エスプラネード橋を歩きながら潮風に吹かれれば気分爽快です。
逆の右手のベイ沿いにはおしゃれなカフェが建ち並び、像の背後には、近代的な高層ビルが林立しています。
マーライオン・パークは、マーライオンの姿を360度の角度から眺められるばかりでなく、周囲はシンガポールを代表する建築物がパノラマ・ビューで広がるのです。訪れた人の中にがっかりした表情を浮かべる人など皆無で、カメラを片手に歓声をあげながら被写体、角度を選びシャッターを押し続けています。