スイスやフランスなど、ヨーロッパ各地の名だたるミシュラン星付きのレストランで約20年のキャリアを重ね、シンガポールに来る直前までは、ロンドンのラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブションでスーシェフをしていた、堀内雅史シェフによる新店、「桜坂」がオープンしました。
鍋が好きで、フランスやロンドンにいた時にも、友人を招いては鍋パーティーで腕を振るっていた堀内シェフ。伝統的に鍋の文化があるシンガポールで、伝統的な日本の味と、フレンチで修業を積んだ自身のキャリアを生かした新感覚の鍋、どちらも楽しめるお店をと考案したのだそう。
名前の由来は、堀内シェフの故郷、福岡の桜の名所から。レストランが位置する、緑豊かなグリーンウッドアベニューの雰囲気と、共通する雰囲気を感じるからだとか。鍋は2人〜の提供で、価格は2人セットでS$91〜。追加で一人加わるごとに、この半額の一人前相当額を追加するという仕組みになっています。堀内シェフ手作りの出汁は、なんと6種類。この中から2種類を選ぶことができます。伝統的な和風だしは、九州出身の堀内シェフにとって、母の味でもあるというあご(トビウオ)出汁。そのほかにも、日本風に作った豚骨出汁、鶏がら出汁、ベジタリアンメニューの豆乳出汁などがあります。そして注目は、堀内シェフのフレンチのバックグラウンドが生きた、透明なビーフコンソメと、ブイヤベース出汁。
具材はそれぞれの出汁に合うおすすめのセットの中から選ぶことができます。Beef set(2名で128シンガポールドル)は、茶わん蒸し、そして日本の上州和牛の石焼きからスタート。熱した石の上で、好みの火加減に焼いたら、温泉卵につけて、すき焼き風にしていただきます。
そして、メインは青森産の、米を食べて育ったという牛肉。ストリップロインが150g、リブアイが150gと、たっぷりしたボリューム。おすすめの食べ方は、ビーフコンソメ、鶏がら、豚骨、あご出汁、豆乳。4人でいただいたので、あご出汁と豚骨、ビーフコンソメと、とっても気になっていたブイヤベース出汁を選びました。まずは、ビーフコンソメ出汁を一口。とってもクリアなスープは、ロブションの時代と同じ作り方で、8時間以上かけて煮出したもの。上品な味は、まさにフレンチの真髄。それを、こんなに大きな鍋でいただけるなんて、とっても贅沢。フェンネルの根やアスパラガスなどの西洋野菜も入っているのが面白く、ちょっとポトフのような印象です。ちなみに、出汁は足りなくなったらどんどん追加してもらえるのもうれしいところ。
牛肉をしゃぶしゃぶにしていただくと、脂の甘みと牛肉の味わいがしっかり。
上品なビーフコンソメ出汁と一緒にいただくと、牛肉のうまみにさらに繊細な複雑味が加わります。また、出汁には、堀内シェフ手作りの3種類のソースがついてきます。私が一番気に入ったのは、スダチと藻塩を使った塩ポン酢。そのほかにも、味噌たまりを使ったポン酢、少しスパイシーな胡麻だれなど、好みに合わせていただけます。そして、ビーフコンソメをオーダーした時のおすすめは、アラカルトでオーダーするフォワグラ!鍋にフォワグラ?と、最初半信半疑でしたが、これが本当によく合います。溶けきってしまわないように、軽く火を通すのがポイント。ビーフコンソメと一緒にいただくと、極上のフレンチの味わいに。そして、フォワグラをしゃぶしゃぶした後のスープが、ほんのりフォワグラの香りが移って、フォワグラ好きにはたまらない味に。このまま、ゼラチンを入れてフォワグラゼリーにしたい!と思うようなおいしさです。
コラーゲンたっぷりの豚骨スープは、九州産のブランド、白豚の肉と合わせて。脂身の部分が繊細で、優しい味わい。
シーフードセット(2人でS$108)は、大きなエビ、ホタテ、鯛、ムール貝、イカ、ハマグリにエビのつみれがセットになっています。このセットには、あご出汁やブイヤベース出汁などがおすすめだそう。あご出汁は、上品でマイルドな味。隠し味にみりんを使っているのだとか。このまろやかな味わいが、シーフードを優しく包みます。そして、個人的に一番気になっていたブイヤベース出汁。実際に試してみると、洗練された漁師汁のような、濃厚な魚介の出汁のうまみで、鍋にもぴったり。ロブションの時代と同じ手法を使い、ロブスターなどの高級食材もたっぷり使って出汁をとっているそうです。「伝統的な日本の鍋に、フレンチのタッチを加える」という堀内シェフ、見事に和食に合うブイヤベースを生み出していました。
どれも、5種の季節の野菜と2種類のキノコ、しめのご飯か麺、デザートのかき氷がセットになっています。しめは、うどん、卵麺、おじやなど。S$12の追加料金でリゾットにすることもでき、このブイヤベース出汁はリゾットにもぴったり、ということで、パルメザンチーズとチェダーチーズ、卵で仕上げたリゾットに。チリ味噌など、6種類の薬味がついてきます。
どれもデザートとして、かき氷が。温かい鍋を食べた後に、すっきりと涼感あふれるデザートです。これも、ただのかき氷ではなく、ポートワイン、ティラミス、イチゴクリーム、ミルクパンナコッタなどのオリジナルかき氷は、これまでのかき氷とは一味違う、新しいおいしさです。個人的には、シナモンなどのスパイスの効いた大人な味わいのポートワインのかき氷、また甘さ控えめのコーヒースポンジ、コーヒーアイスクリームの入ったティラミスかき氷が気に入りました。
それ以外にも、上質な牛肉を生かしたすき焼き(野菜とキノコ、ご飯かうどん、かき氷のセットの2人前でS$150)も楽しむことができます。こちらは、ホルスタインと和牛の交配種ですが、お肉を追加する場合、最高グレードの上州牛、A4〜A5の肉を選ぶこともできます。(リブアイ(ハート)と、それよりもやや脂が控えめなストリップロイン)口の中でとろける味に、日本の和牛のおいしさを実感できます。
ちなみに、日本酒も、料理に合わせて堀内シェフの友人の日本酒ソムリエに選んでもらったということで、最高グレードのものがそろっています。
日本の伝統とフレンチ最高峰の技法が生きた鍋のお店。純粋に日本のおいしい鍋が食べたい方、また、これまでにない新感覚の鍋を体感したいという方に特にお勧めです!
【データ】
■桜坂(Sakurazaka)
住所:24 Greenwood Avenue Singapore 289221
Tel:+65-6463-0333
URL:http://www.sakurazaka.com.sg/
営業時間:ランチ 11:30〜15:00(木〜日曜)、ディナー 18:00〜22:30、無休
仲山 今日子
元テレビ山梨、テレビ神奈川アナウンサー。現在はフリーアナウンサー、ディレクター、ライターとしてお仕事を受けています。シンガポールのテレビ局J Food & Culture TV 勤務、All Aboutシンガポールガイド。ブログ。趣味は海外秘境旅行&食べ歩き、現在約40カ国更新中。