固い地殻で覆われる地球の表面は不動に見えものですが、地球史の長いスパンで見るとゆっくりと変化し続けているのです。地殻変動に加え、土壌や岩石は雨水の影響を受けて形を変えます。中でも石灰岩は二酸化炭素の溶け込んだ雨水によって容易に浸食されます。日本では秋吉台をはじめ各所に鍾乳洞が見られます。
石灰岩が作る特徴的な地形はカルスト地形と呼ばれています。その語源となったのが、スロヴェニアの南西部クラス地方に広がる石灰岩台地です。雨水に溶かされた石灰岩が特徴的な景観を作り上げ、地下には巨大な鍾乳洞ができあがりました。シュコツィヤン鍾乳洞は、約3億年前に形作られた全長約5キロ、幅約230メートルの巨大な洞窟です。
シュコツィヤンに電車で訪れるときの最寄りの鉄道駅はディヴァチャ駅です。スロヴェニアの首都リュブリャーナからは1時間40分前後です。駅前からはシュコツィヤン鍾乳洞に向かう無料送迎バスが接続しており、10分弱でシュコツィヤンのビジターセンターに到着します。
鍾乳洞の見学には2種類のコースが設けられています。人気が高いのはコース1で、ガイドの説明を聞きながら、様々な鍾乳石やツェルケヴェニコヴィムの吊り橋を見ることができます。このツアーは6月から9月は1時間ごとのスケジュールとなっているのですが、それ以外の時期には1日に2、3回しかありません。また、ツアー2は洞窟の底を流れるレカ川沿いを歩きます。こちらのコースは4月から10月に1日2、3回で、それ以外の時期は休止となります。いつでも自由にツアーに参加できるわけではないので、予めタイムテーブルを確認しておくべきでしょう。
いずれのコースも、出発時間になるとビジターセンターの待合所で合図があります。ガイドの指示に従い渓谷を歩き、鍾乳洞の入口に向かいます。入口でスロヴェニア語、英語、フランス語、スペイン語などのガイドのグループに分かれ、順番に洞窟の中に入って行きます。
ツアー1では約3キロの道のりを1時間半あまりかけて歩きます。坂道や階段も多く高低差は百数十メートルになります。洞窟内の気温は1年を通じて12度前後ですから、夏季に訪れる場合は防寒着を準備しておく必要がります。
一歩洞窟の中に入ると、空間は鍾乳石の自然のアートで埋め尽くされています。気の遠くなるような歳月をかけて雨水が石灰石に細工を加えたのです。天井からは氷柱が垂れ下がっているかと思えば、足元にはタケノコが地面から顔を出します。人間の手では作れないような繊細なフォルムの彫刻が溢れます。
垂直方向ばかりでなく水平方向にも造形ができあがっています。石灰棚ドゥヴォラナ・ポンヴィクには皿状の石が何段に積み重なっています。地下の大渓谷でもある洞窟には深い谷を超える吊り橋が架けられています。ツェルケヴェニコヴィムの吊り橋から下を眺めると約45メートル下の谷底に吸い込まれそうな錯覚に襲われます。
洞窟の底にはレカ川の流れが絶えず、ドリーネと呼ばれる地底湖まであります。クラス地方の台地の地下に果てしなく広がる空洞は、全てのポイントが異なるユニーク表情をもっているので飽きることはありません。