至る所に古い街並みが残るパリですが、その中でも特に古い地区があります。市内5区カルチェ・ラタンと呼ばれる学生街にあるムフタール通りです。ここは起源をローマ時代まで遡ることができるパリでも特に古い道で、サン・メダール教会を中心に商店街が広がっています。
パリは、かつて周囲を壁に囲まれた城塞都市でした。それが年月と共に外に拡張され、最終的に壁はすべて取り払われました。ムフタール通りも、中世はパリ市外にあるサン・メダール村の通りでしたが、18世紀にパリへ組み込まれ、現在に至っています。
パリの街並みは古くから変わっていないと思われがちですが、現在の景色は19世紀、ナポレオン3世治世下のセーヌ県知事ジョルジュ・オスマンにより行われた、区画整理で定められたものです。ブルヴァール(Boulevard)と呼ばれる大通りは、その時の計画道路で、これによりパリは、今に続く近代的な都市に変貌しました。しかしムフタール通り周辺は、このパリ改造から免れることになり、幅の狭い道や蛇行し入り組んだ街並みなど、中世のまま残ったのです。
ムフタール通りには様々な店が並んでいます。ただし、レストランは観光客向けのものが多いです。雰囲気を味わうには良いですが、おいしいところは多くないため、事前に調べてから入った方がいいでしょう。レストラン以外の食材店などは、地元の人も使い、悪くありません。ブーランジェ・ドゥ・モンジュ(パン屋)、カール・マルレッティ(パティスリー)など人気店も点在します。ムフタール通りの最寄り駅の1つ、地下鉄7号線プラス・モンジュ(Place Monge)駅があるモンジュ広場では、水・金・日曜の午前中にマルシェも開かれています。
ムフタール通りがある文教地区の5区は、サンジェルマン・デ・プレを中心とした華やかなお隣り6区と比べ、落ち着いた庶民的な雰囲気を残しています。今は少なくなってしまった中世の頃のパリの雰囲気を感じられる、とっておきの散策スポットです。
加藤 亨延
ジャーナリスト。日本の雑誌に海外事情を寄稿。専門は日・英・仏の比較文化。ロンドンにて公共政策学修士を修了後、東京で雑誌、ガイドブック制作に携わる。2009年9月よりパリ在住。取材などで訪れた先は約60ヵ国800都市。現地コーディネートも担当。趣味は飲物。各国蔵元とミネラルウォーターの源泉へ足を運ぶことがライフワーク。フランス/パリの旬の話題を中心に更新していきます。ご連絡はこちらまで。