マレーシアで毎年1月下旬から2月上旬ごろに行われるヒンズー教の奇祭「タイプーサム」、2016年は1月24日に開催されます。
今年のタイプーサム開催に先立ち、2015年の2月3日に行われた前年のタイプーサムの様子をお伝えします。
タイプーサムとはヒンズー教のお祭りで、ヒンズー教徒たちが神々への感謝を表すために様々な苦行を行います。あまりに危険なので、インドでは禁止されており、今ではマレーシアとシンガポールでのみ行われています。
早朝、クアラルンプール市内にあるヒンズー教の寺院「スリ・マハ・マリアマン寺院」を出発した苦行を行う信者たちは、約20km離れたヒンズー教の聖地「バツーケーブ」へ徒歩で向かいます。
タイプーサムの日は、車ではバツーケーブの周辺には近づけませんので、お参りをする信者たちや観光客は電車でバツーケーブに向かいます。駅前には即席の散髪屋がオープンしており、お参りに行く信者たちは剃髪して身を清めます。
苦行を行いながらバツーケーブに向かう信者です。この鉄串は口にくわえているわけではなく、頬を貫通しています。目は血走り、ときおりうめき声をあげながら進んでいきます。ものすごい迫力です。
物静かに、ときおり笑みを浮かべながら歩いて行く信者もいます。
カヴァディという巨大な一人神輿のようなものを担いでいる人もたくさんいます。かなりの重さでしょう。前の方には、神様にささげるミルクが入った壺を頭の上にのせて進む女性信者がいます。
時折立ち止まって踊りを披露する信者もいます。天秤棒には大きなミルク壺がぶら下がっており、背中には小さなミルク壺がいくつも鉤爪で直接肌にぶるさげられています。
額に赤いしるしがあるほか、口の中も真っ赤に染まっていました。ヒンズー教の中でも宗派があるようで、さまざまなスタイルの苦行者が見られます。
全身ミルク壺だらけで鈴のついた杖を持って歩く、ひときわ存在感のある苦行者。
女性信者は民族衣装で着飾って参拝します。
タイプーサムには、マレーシア国内のヒンズー教徒をはじめ、インドや近隣の国々からも多数の信者が参加します。観光客もたくさん来ますので、人の数はかなりのもです。
高さ42.7メートルの巨大なムルガン神像の足元から、272段の階段が岩山に向かって伸びており、この先に巨大な洞窟が口を開けています。
バツーケーブの鉄道駅から、このムルガン神像までは500メートル程度ですが、人の波にもまれてなかなか進むことができず、1時間以上かかりました。
やっと階段にたどり着きました。
苦行者にとっても、ここが最後の難関です。
次から次へと人々が階段を登ってきます。
階段途中でみかけた風景です。神像のようなものを抱えながら階段を登る信者。時折、神像になにかを話しかけているようです。神秘的な神像と、この信者の鬼気迫るような表情に惹かれました。
階段の途中で振り向くと、周辺は人間の絨毯が敷かれたような状態です。
先ほどの、全身ミルク壺だらけの苦行者です。階段の最後の一段を登る前に儀式を行っています。階段をの登りきった先が聖域となるようです。
この赤い装束に黄色い花のレイをつけた苦行者はひときわ神秘的でした。目隠しをしているようで、付添の信者が誘導しています。重たそうなミルク壺を天秤棒で運びながら、さらに目隠しをして20キロ歩いてきたわけですから、かなりのダメージでしょう。
階段を登りきれば、バツーケーブの入口はもう目の前です。
バツーケーブ内部に足を踏み入れると、既にそこは多くの人々で埋め尽くされていました。
バツーケーブの内部には祠があり、ここが信者たちの最終目的地です。神への捧げものであるミルクを運んで来た人たちは、ここで奉納します。
お参りが終わると、苦行者たちはここで重荷を下ろします。ほっとした表情の信者も見かけますが、倒れ込んで動けなくなる苦行者もいます。
バツーケーブは、天然の洞窟です。こうして見ると、その巨大さがよくわかります。
苦行者は体に串をさしても痛みを感じず血も出ないといいます。重いカヴァディやミルク壺を担いで歩き続けても疲れを感じないそうです。お参りを済ませて重荷をおろした途端、疲れがどっと押し寄せて来るそうです。神の力でしょうか。
私も重いカメラを2台持って、たいへんな人ごみをかき分け炎天下の中取材をしました。272段の階段も登りました。しかし、不思議と疲れを感じませんでした。異邦人の私にも神が降りてきたのでしょうか?
観光客として参加するだけでもかなり体力のいるお祭りですが、その熱気とパワーは、一度経験する価値ありです。機会があれば、是非参加してみてください。
クアラルンプール市内からバツーケーブへは、まずKLモノレールでKLセントラルまで行き、KTMコミューターのバツーケーブ・プラブハンクランルートに乗り換え、終点のバツーケーブ駅で下車します。所要時間は乗り継ぎも含め50分程度です。
阿部 吾郎
24年間旅行会社に勤務した後、2013年に独立し「トラベルガイド株式会社」を設立。「人がそこに行きたくなる写真」をテーマに国内外で写真撮影を行っている。同社が運営するマレーシアの旅行情報サイト、トラベルガイド・マレーシアにも自身で撮影した写真が多数使われている。その他、旅行写真素材の販売、旅行記事の執筆、旅行会社へのコンサルティングなどを手掛る。最近はマレーシアに年4~5回程度渡航。その他、旅行会社時代の経験も含め得意な方面は、台湾、香港、マカオ、シンガポール、アイスランドなど。