四方を海で囲まれた日本の隣国との国境線は全て海ですが、南米では大陸を南北に繋がるアンデスの高峰を国の境としている国々が幾つもあります。数千メートル級の山が人の行き交いを遮り、国を分断しているかのようです。ところが、アルゼンチンやチリの人々は険しい道をかき分け、高い障害物を超えて交流していたのです。
アンデス山脈の東の麓にアルゼンチン屈指のワインの産地としてメンドーサの街が発展しました。ブドウ畑の彼方には標高6960メートルで南米最高峰のアコンカグアが、山頂に雪を絶やすことなく優雅な姿で聳えています。
メンドーサはアルゼンチンの西の端に位置し、チリのサンティアゴに向かうバスが通っています。アコンカグアを真北に見ながらアンデス山脈を越えるのです。午前中を中心に1日10便前後の便が運行されており、両都市が山を隔てながらも密接に結びついているわけです。
メンドーサのバスターミナルを出発したバスは、市街地を抜けルート40を南に向かいます。テラダ地区で右折しルート7に乗り西進すると、アンデスの山並みが正面に見えます。峰々の稜線が空をキャンバスとして絵画を描いているかのようです。
乗車1時間足らずでアンデスの登山が始まります。なだらかな坂道の北に、穏やかな水面のポトレリージョス貯水池が見えてきます。池とはいっても湖のようです。池を通り過ぎると、アンデスの雪融け水を低地に流すメンドーサ川に沿って高度を上げます。
険しい坂道ばかりのアンデスの斜面には驚いたことに、幾つか小さな集落が点在しているのです。高度2000メートルを超えるところにウスパジャタの村が広がります。ガソリンスタンドの横には旅行社までありました。きっと、アコンカグアの登頂やアンデスのトレッキングをサポートしているのでしょう。
海抜3000メートルを超える高地にも村落があります。ロス・ペニテンテスにはロッジを集約したおしゃれなホテルがあります。アアコンカグアの山頂を目指す人が拠点として利用することもあるようです。
ロス・ペニテンテスから約30分前進すると、突然バスは立ち往生します。前を見ると長い車の行列の先には、雪山を背景に三角帽子を被ったような施設が見えます。ここがアルゼンチンとチリの国境なのです。標高約3000メートルの高台に両国の出入国審査所が設けられていることに驚嘆します。
国境を超える手続きをするために一度バスを降りなければなりません。ところが外は銀世界です。半袖でバスに乗車した場合には防寒着を羽織る必要があります。
バスを下車し建屋に入るとずらりとカウンターが並んでいます。アルゼンチン出国、チリ入国の審査のための窓口が隣り合っているのです。出入国の手続きはほんの数分で完了します。次の手荷物検査では全ての荷物がトランクから出されX線検査されます。ここの検査基準は厳しいのか、鞄を開けて係員に説明している人の姿も少なくはありません。一連の手続きそのものはアッという間に終わるのですが、待ち時間ばかりが長く2時間から3時間の時間を要するようです。
乗客の荷物がトランクに収まれば、今度はアンデスの西斜面を下降します。チリの東国境のエリア、ポルティージョは急勾配です。数百メートル走る度にバスは180度方向を変えます。ヘアピンカーブの連続です。10分余りの時間で数百メートルは高度を下げているのでしょう。
急カーブで数十回、体を左右にふられた後は、なだらかな下り坂をサンティアゴに向けて加速します。アンデス山脈を東西に貫通するバス紀行の所要時間は7時間前後です。