大統領の食べたスープごはんと外食王の褒めたチキンが名物の市場

美味しい店を自力で探す喜びもありますが、手っ取り早いのは誰かから推薦を受けることでしょう。その人が食べて美味しかったのだから、きっと一定以上の信頼は置けるはず。ただ、その人を誰にするかという部分には一考の余地がありますね。好みをよく知っている友人だったり、その道のスペシャリストだったり、あるいは美味しいものをいっぱい食べていそうな有名人だったり。そんな意味からすると、韓国でよく最強のカードとされるのが大統領のおすすめ店だったりします。

そこで紹介したいのが、韓国の南西部に位置する光州（クァンジュ）の良洞市場（ヤンドンシジャン）。野菜、果物、魚介、精肉、惣菜、乾物と食料品だったらなんでも揃ううえに、美味しい市場グルメも充実しているため、地元民にとっても観光客にとっても楽しいスポットです。なお、上の写真は惣菜店で売られていたさまざまなジョン（チヂミ）ですが、いちばん右下にユッチョン（牛肉のチヂミ）という郷土料理がさりげなく並んでいるあたりも見どころのひとつ。韓国の郷土料理に詳しい人であれば、「おっ、光州らしいな！」と鼻がひくひくする部分です。

そんな良洞市場に行ったら「ハナ粉食」という店を探してみてください。朝7時から営業している市場関係者の御用達店で、クッパプ（スープごはん）や、ククス（麺料理）といった料理を中心に提供しています。ただ、メニュー自体は市場では定番の料理が主であり、隣接する他店とそこまで大差ある訳ではありません。

特別なのはこちら。横断幕にハングルで大書されているのは、「盧武鉉大統領が召し上がったクッパプ店」という文句です。一応、日本語っぽく敬語の度合いを控えめにしましたが、原文では大統領「様」と敬称が追加されています。お店の方に尋ねたところ、実際は大統領時代ではなく、2002年のこれから選挙に臨むという時期だったそうですね。市井の方に混ざって庶民アピールをするという意味もあったのでしょうが、しっかり当選したことで、「ウマイ！」と褒めたジャントクッパプ（市場式のスープごはん）は盧武鉉クッパプと呼ばれて良洞市場の名物になりました。

こちらがその盧武鉉クッパプ。豚の各部位をよく煮込んだスープに、モリコギと呼ばれる豚の頭肉と、ホルモン（小腸）などが具として入っています。エゴマの粉がたっぷり入っているので風味よく、また香ばしく、内臓特有のくさみも感じられません。中でもクニッとしたモリコギの皮部分はいい感じ。

スープの中にはたっぷりのごはんが沈んでいます。朝から食べるにはそこそこのボリュームですが、ピリッと刺激的なスープは身体をほどよく温めてくれます。これからの寒いシーズンにもぴったりですね。

＜物件データ＞
ハナ粉食（하나분식）
光州市西区良洞市場2キル2（良洞263-64）
광주시 서구 양동시장2길 2(양동 263-64)
062-364-1778

さて、ところ変わって良洞市場のまた別の一角。こちらにはチキン専門店が軒を連ねています。韓国では近年フライドチキンの人気が高く、さまざまな新興店が乱立。新しいテイストや、アレンジ、食べ方などが競うように開発されて百花繚乱ですが、この市場で愛されているのはきっぱり昔風のフライドチキン。

店頭にしつらえられた揚げ場で、衣をまとわせたぶつ切りの鶏肉を、たっぷりの油で次から次へと揚げていきます。市場らしいボリュームもさることながら、カリッと香ばしい衣の食感が何よりの魅力。

また、中央に見えるタッパル（鶏足）をも、一緒に揚げているというのが大きな特徴です。そして、最近はもうひとつ。こんな太鼓判が押されたことでも話題になっています。

新設された看板の上部に書かれているのは「3大天王のチキンは光州にただひとつ」というフレーズ。中央には屋号である「良洞トンダク」という文字の間に、「ペク・チョンウォンの3大天王」というテレビ番組の写真が挟まれています。つい先日の2015年10月に番組で紹介されたということですが、これが話題となってますますお客さんが増えているのだとか。というのも番組の主役であるペク・チョンウォンさんは、韓国で30以上もの飲食ブランドを展開する外食王。「セマウル食堂」「本家」「ペクタバン」といったお店を展開しつつ、現在はグルメ番組にも引っ張りだこという人物です。その彼が番組で「ウマイ！」と褒めたとなれば、その影響力は推して知るべしと言えましょう。

光州が誇る市民の台所に名店ふたつ。大統領を信じるか、外食王を信じるか。はたまた両方を信じてハシゴをするか。僕はもちろん両方行ってきました。

＜物件データ＞
良洞トンダク（양동통닭）
光州市西区川辺左路260-1（良洞5-1）
광주시 서구 천변좌로 260-1(양동 5-1)
062-364-5410