日本の盛夏には櫓を中心に輪になって盆踊りをする習慣があります。お盆の時期に戻ってきた先祖の霊を慰めるための念仏踊りが進化したものです。音に聞けば体を動かしたくなるのは世界共通の人間の本能かもしれません。
バルカン半島の南東端を国土とするブルガリアでは、ユニークなダンスの文化が育まれました。訪れた国のフォークロアに接することは、かけがえのない異文化体験となります。伝統料理をメニューとする飲食店のメハナの中には、民俗芸能のショーのプログラムが組まれた店があります。食文化と音楽文化を同時に体験できるのは一石二鳥です。
首都ソフィアにあるメハナ、チェヴェルメトは連日数多くの人で混み合う名店です。店を構えているのは、施設内に14ものホールや会議室を備えた国立文化宮殿NDKの一角のNDK-プロノト(NDK-Pronoto)です。NDKは、地下鉄やトラム、バスの起点としてソフィアの中心となっているスヴェタ・ネデリャ広場から、ヴィトシャ通りを1キロ余り南へ直進したところで貫録もった姿で建っています。
チェヴェルメトでは毎日、21時からブルガリアの伝統舞踊のショーが行われています。パーフォーマンスが始まると店内で飲食を楽しむ人々は、音楽に合わせて手拍子や掛け声、口笛で雰囲気を盛り上げます。
ところが、音楽に耳を傾けてみるとリズムがとても複雑なのです。ブルガリアのダンス音楽のリズムは、5、7、9、11、15拍子などの変拍子が基本となっています。ウインナ・ワルツの3拍子からは大きくかけ離れたリズム感です。不自然と考えられがちな拍節は、畑で種を蒔く、足で土をかけるなど、農作業から極めて自然に身についたと考えられています。
多種多様のブルガリア民族舞踊の中で最もポピュラーで、男女各々2名で踊られるラチェニッツァは7拍子で踊られます。素数で作られるリズムは、2拍、2拍、3拍に分解され、強、弱、中強、弱、中強、弱、弱のビートが生まれます。ユニークなアクセントが、変化に富んだ表現を産み出すのです。
男女1名ずつ加えた6名でのダンスでも、全員の動きが乱れることはありません。民族衣装を身に着けて踊る姿には、半島に広がる田園風景の中で、村人たちが語らいながらのどかに暮らす喜びが溢れ出さんばかりです。
女性の優雅でしなやかな身のこなしに対して、男性が踊るダンスには躍動感が漲ります。桶や太鼓、弓のような長い竿を手にすることもあります。ショーの合間には客が自由に踊れるフリータイムが設けられています。自らの体を動かしたい人はパーフォーマンスの終了が待ちきれず立ち上がってしまうようです。
多数の人が輪になって踊るダンスはホロと呼ばれています。その中で最も基本的なものがプラヴォ・ホロです。互いに手をとり合った人たちは、7拍子のリズムで息を合わせます。右にステップ・ホップで2歩進み、右足からのランニング・ショティッシュ、続いて左足からのランニング・ショティッシュという動きが基本のステップです。手を繋いで輪になって踊り始めたのはオスマン・トルコの支配を受けた時代に、村民の平和な暮らしを守ろうとする思いがサークルを形作ったものだと伝わります。
【データ】
チェヴェルメト(Chevermeto)
住所:NDK- Pronoto, 1 Bulgaria Blvd, Sofia 1000, Bulgaria
Tel:00359-2-9-630-308
e-mail:chevermetobg@gmail.com
営業時間:12:00〜24:00
URL(英語版):http://www.chevermeto-bg.com/en/