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ズワイガニの季節になったので産地へ行ってついでにエビも食べる

   
八田 靖史
八田 靖史
 
浦項の竹島市場。ズワイガニやベニズワイガニが並ぶ

11月になりました。早いもので2015年もあと2ヶ月。慌ただしい年の瀬がひたひたと近付いてきます。ただ、カレンダーこそ終わりの気配が濃厚ですが、少し視点を変えて食の世界を見ると、何もすべてが1〜12月までのサイで動いている訳ではありません。例えば、これから冬に向けて水揚げが本格化する、ズワイガニ漁なんかは11月1日が解禁日。5月末までがシーズンなので、終わりどころか、まさにこれからが始まりというフレッシュな空気に満ちています。

ズワイガニは注文ごとにスチーム。値段は時価が多い

韓国語でズワイガニはテゲ(竹蟹の意)。節のある足の見た目から名付けられたそうです。主な産地は東海岸沿いで、慶尚北道に属する蔚珍(ウルジン)、盈徳(ヨンドク)、浦項(ポハン)という3地域が特に有名。いずれの地域を訪れても美味しいズワイガニを食べられますが、話を聞いてみるとそれぞれにライバル意識があるみたいですね。実のところ漁場はどこも同じなのですが、どこの港に行っても「ウチがいちばん!」というセリフが聞こえてくるのは面白いところです。ちなみに上の写真は浦項の九龍浦(クリョンポ)という港で撮ったもの。近年の水揚げ量ではナンバーワンを誇っています。

市場で売られているクァメギ。かつてはニシンで作った

そんな浦項でズワイガニを目指すメリットのひとつが、ズワイガニ以外の魚介もたいへん充実しているという部分でしょう。ズワイガニだけでなく、天然のアワビもとれますし、アナゴ、タコも名産のひとつ。上の写真はサンマを生干しにしたクァメギという料理ですが、これも浦項を代表する冬の味覚として全国に知られています。

クァメギは海藻で包むのが基本。海の香りが倍増する

生っぽさを残しつつも熟成した風味が何よりの持ち味。コンブやワカメ、海苔などに包んで食べるのが現地の流儀ですが、そこへニンニクや青唐辛子も載せ、チョジャンと呼ばれる唐辛子酢味噌で味をつけます。ぬめっとした食感の中から、海の香りがぶわわわわとなだれ込んできます。冬のいちばん寒い時期、12〜2月がシーズンなので、この時期に浦項へ行ったらぜひ試してみてください。

シマエビの刺身。値段はひと皿でW5万前後とやや高価

個人的に浦項で必ず立ち寄るのが、北部海水浴場(プップヘスヨクチャン)にある「パダイヤギ」という海鮮居酒屋。海岸沿いに並ぶテント張りの室内屋台といった雰囲気の店なので、海の幸を肴に焼酎をクイッと傾けるにはもってこいなのです。あれこれメニューがある中で、ぜひ試していただきたいのが、近海でとれるシマエビの刺身。韓国語ではコッセウ(花エビ)と呼びますが、シマシマの模様が鮮やかで、盛り付けると確かに花のようにも見えます。日本語も韓国語も納得といったネーミングですが、これがもう出てきた瞬間に、思わずうわーっと歓声のあがる美しさなのです。

頭をハサミでカット。これもパフォーマンスのひとつ

見た目を楽しみ、きちんと写真に収めたら、かわいそうですがお店の人による首ちょんぱタイム。キッチンバサミでぱつんぱつんと頭をカットしていきます。

直前まで活きていただけあって食感のよさで群を抜く

ぷりっと殻をむけば、ぴっちぴちの身。どうせならまずは何もつけうに食べていただきたいですね。口の中で踊るような食感と、ねっとり濃厚な甘味をストレートに楽しめます。しかる後に、醤油をちょんとつけてもよし、韓国式にチョジャンでもよし。そのあたりは好き好きでよいですが、くれぐれもテーブル上で寝かせることなく、新鮮なうちに素早く食べて欲しいとは思います。

カリッとした手足をぽりぽりかじってもつまみになる

ほどよいタイミングで先ほどカットした頭が再登場。いったん厨房に下げてカリッと焼いてくれるのですが、ミソもたっぷり詰まってこれまた極上の美味なのです。丸ごと食べてもいいですが、ミソのところだけを吸うようにかじってもいいですね。どうしてなのか、必ずゆで卵と一緒に出てくるので、こちらの殻もむきながら味わいます。

卓上で焼くチョゲグイも海沿いの町で食べたくなるもの

しっかり食事をするなら、シマエビと一緒にチョゲグイ(貝焼き)などを頼んでもオツですね。ホタテ、ハマグリ、タイラギなどを目の前で焼いてくれます。チーズを載せたり、コチュジャン系のタレを忍ばせたりというのが韓国らしいところ。ほかにもメウンタン(魚のアラ汁)であったり、刺身の盛り合わせだったり、多彩な海の幸が用意されています。

海水浴場からライトアップされたPOSCOの姿が見える

ひとしきり飲んだら、酔い覚ましに海辺の散歩なんていかがでしょう。海の向こうに見えるのは浦項のビジネスシーンを支えるPOSCO(浦項製鉄)。明るいときに見れば煙突などの立ち並ぶ工場群ですが、夜にはきれいにライトアップされ、人気の見どころとなります。波の音を聞きながら、ぼーっと座って見るのも悪くないかと。浦項の夜の、ちょっと優雅な過ごし方としておすすめしたいスポットです。

<物件データ>
パダイヤギ(바다이야기)
慶尚北道浦項市北区海岸路107(斗湖洞611)
경상북도 포항시 북구 해안로 107(두호동 611)
054-255-9995

八田 靖史

八田 靖史
1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。

    

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