ヨーロッパの刃物というとドイツ「ヘンケルス」社を連想する人が多いと思います。同社があるゾーリンゲンも刃物の産地として有名ですが、その双璧と言っていい町が仏中部にあるティエールです。同地はミネラルウォーターで有名な保養地ヴィシーの南に位置しています。ヴィシー駅前から出ているバスに乗り込み、45分ほど揺られたら到着です。ティエールには鉄道駅もありますが、アクセスはほぼバスです。
ティエールは山間を流れる川の水力と、周囲の豊富な木材資源を燃料に、刃物産業が発達しました。今は機械化が進んだ同生産ですが、かつての工房は川に沿うように立ち並んでいます。町全体は高低差があるため立体的で、高台から全体を望むと、美しい景色を楽しめます。旧市街には木組みの中世からの町並みも残っています。
町には至るところに刃物の店が立ち並んでいますが、店内に入るのは少し我慢して、まずは刃物博物館へ行きましょう。ここではティエールの刃物の歴史と、その製造方法、仕組みなどを実演付きで学べます。刃物を見る目も変わりますよ!
かつてナイフの仕上げは、水力の利用して滑車を回し、それを使って研磨していました。一日中うつ伏せになって刃物を研ぐ仕事は、当時かなりの重労働でした。
一通りティエールの刃物について学べたら、お目当の買い物へ! テーブルナイフやソムリエナイフ、包丁など、様々な刃物を購入することができます。日本で有名なソムリエナイフのブランド「シャトー・ラギオール」も「ラギオール」というフランスの村名が付いていますが(こちらも刃物の街で有名)、じつはティエールにあるSCIP社が生産しています。ちなみにSCIP社の直営店は役場のすぐ近くです。
渓谷の深い緑と川の流れる音、中世から息づく刃物職人の魂。ここティエールは、フランスの豊かな地方色を体験出来る、とっておきの場所の1つです。
加藤 亨延
ジャーナリスト。日本の雑誌に海外事情を寄稿。専門は日・英・仏の比較文化。ロンドンにて公共政策学修士を修了後、東京で雑誌、ガイドブック制作に携わる。2009年9月よりパリ在住。取材などで訪れた先は約60ヵ国800都市。現地コーディネートも担当。趣味は飲物。各国蔵元とミネラルウォーターの源泉へ足を運ぶことがライフワーク。フランス/パリの旬の話題を中心に更新していきます。ご連絡はこちらまで。