エクアドルの首都は赤道直下のキトですが、国内最大の都市はグアヤキルです。太平洋のグアヤキル湾に注ぐグアヤス川の河口から約56キロ上流の沖積地を利用して港湾都市が築かれたのです。市内には約330万の人々が暮らし、商業活動が盛んに行われています。グアヤキルを訪れる観光客は大半がガラパゴス諸島に向かう中継点としていますが、乗継だけではなく、できれば1日、2日滞在したいものです。
グアヤキル市民の生活に潤いを与えているのはグアヤス川です。川沿いには約2.4キロにわたって遊歩道が整備されています。マレコン2000のエリア内には、展望台、ショッピングセンター、フードコート、博物館まで揃い絶好の憩いの場となっています。一日中人影が絶えず、特に夕陽が沈む頃からは遊歩道がライトアップされ、思い思いの姿で川沿いを歩く人で溢れます。
遊歩道の北端はリベルタドール・シモン・ボリバール文化センターです。ベネズエラに産まれアンデス北部のラテンアメリカ諸国をスペインから解放した英雄の名をもつ施設では、スペイン人が入植する以前のアンデス地域の考古学資料が数多く展示されています。
文化センターから西の方角に目を移すと、小高い丘がグアヤス川に向かって迫ってきます。なだらかな傾斜には豊かな情緒を漂わせた石畳の階段が設置されています。石段の左右にはバルやレストランに混じって、カラオケ店までが建ち並んでいます。階段を上りつめればサンタ・アナの丘の頂きです。頂上にあるレストランのオープン・テラスからはグアヤキルの市街地を一望することができます。
サンタ・アナの丘の西部はラス・ペーニャスと呼ばれる地区です。丘の斜面は赤、青、黄色のカラフルな民家で埋め尽くされています。まるでおとぎの国です。遠くから眺めるだけではなく、アートな空間の中に入り込んでみたいものです。ところが、この地域は経済的に恵まれない人々が生活しているエリアなのです。
丘の麓に建つ教会の広場まで来ると、モザイクのサイズが少し大きくなります。聖堂の脇を抜けて裏道に入ると正面に丘を登る路地が目に入ります。一眼レフ・カメラをリュックに仕舞いコンパクト・カメラをポケットに忍ばせ、路地に向かおうとしました。すると近くにいた地元の人が驚いた様子で、手で首を切る仕草をするのです。このまま前に進めば命を落としかねないことを、ボディー・ランゲージで正確に伝えてくださったようです。そこまでの危険は漂ってはいなかったのですが、よもやのこともあるので不本意ながらラス・ペーニャスへの潜入を断念しました。
グアヤキルの市街地を歩いて治安の悪さを感じることはありません。日本人のようにせかせか歩くことなど一切なく、ゆっくり歩く人々の姿には穏やかな暮らしぶり感じとることができます。おとぎの国の中にどうしてもさまよい込みたい場合には、現地の人というより、このエリアを詳しく知っているガイドの同伴が必要となるでしょう。