前回、「秋の旬グルメを満喫できる3軒」として紹介した慶尚北道栄州(ヨンジュ)市の飲食店情報。それでも全部は載せきれなかったので、続きとして「地元民に愛される穴場店」を4軒紹介します。美味しいお店を探すには地元情報に勝るものなし。事前のリサーチも大事ですが、現地での聞き込みに命をかけるのが美味しいお店に出合うコツです。
1軒目は「西部冷麺」。冷麺の本場といえば現在は北朝鮮に属する平壌(ピョンヤン)、咸興(ハムン)が有名ですが、韓国にも朝鮮戦争時に北から避難してきた方の開いた老舗がたくさんあります。こちらもそのひとつで1973年創業。そば粉を中心に麺を作る、本格派の平壌式冷麺を味わえるお店です。
牛ベースのスープに香りのよい麺。つなぎのでんぷんが少なく、ほどよい噛みごたえなので、食感としては日本そばに近いぐらいですね。のんびりしていると伸びてしまうので、さっとたぐってたいらげるぐらいが粋かと。老舗だけあってお店には年配客が多く、それがまた冷麺店としてはいい感じの雰囲気です。
続いてもうひとつ麺料理から。看板には「即席カルグクスチプ」とあり、カルグクスは韓国式の手打ちうどんを指します。チプは家のこと。即席とあるので一瞬インスタントかとも思いましたが、そうではなく麺をその都度作り置きせずに打つという意味でした(韓国ではインスタントラーメンの専門店も多いのです)。
しばらく待って目の前に登場したのは、すりつぶした大豆の汁に麺を入れたコングクス。この店ではわざわざ注文をする必要がなく、5月初めから秋夕(陰暦8月15日)まではひんやり涼やかなコングクスだけを提供。秋夕が過ぎて4月末まではあったかスープのカルグクスを提供するシステムです。
控えめな塩味が大豆の風味と甘味を引き出し、また麺に加えられた塩気もバランスよく調和。手打ち麺のシコシコ食感と、手打ちならではのちょっと太かったり、薄くぴらぴらしているところがまた美味しかったりしますね。気付けばあっという間に完食完飲。いずれ冬にまた訪れてカルグクスのほうも味わってみたいお店です。
<物件データ>
店名:即席カルグクスチプ(즉석칼국수집)
住所:慶尚北道栄州市元塘路147番キル29(下望洞328-6)
住所:경상북도 영주시 원당로147번길 29(하망동 328-6)
電話:054-637-5819
3軒目は「ユミョンハンタッパル」というタッパル(鶏足焼き)の専門店。畜産業の盛んな栄州はブランド牛(栄州韓牛)の名産地として知られますが、養鶏業も盛んで鶏卵の生産量は全国で上位に入ります。そんな土地柄ゆえに昔からタッパルが有名だったのですが、最近になってまた店が増え始めているのだとか。こちらもまだ新しく、若いご夫婦がカフェを併設しながらこだわりのタッパルを提供しています。
鶏の足と聞いてギョッとする人もいるかもしれませんが、韓国では市場料理、居酒屋料理としてポピュラーな一品です。全体に絡めたタレは甘めながらもビリッと辛く、ゼラチン質でぷるぷるっとした鶏の足とよく合います。最初は恐る恐るでもいいので、ぜひ試してみてください。
ひとつユニークな特徴として、このお店では敷地内で馬を飼育しています。まだ準備中でしたが、いずれは子ども向けに馬車を走らせたいとのこと。こういう発想が出てくるのも自然の豊かな栄州ならではですね。実現がとても楽しみです。
<物件データ>
店名:ユミョンハンタッパル(유명한닭발)
住所:慶尚北道栄州市伊山面伊山路252(院里306-3)
住所:경상북도 영주시 이산면 이산로 252(원리 306-3)
電話:054-631-8838
さて、最後は中央市場近くのトッポッキ(韓国餅炒め)屋台。栄州に住んでこの店を知らなかったらモグリだそうです。自動車のランドローバーを扱う代理店前にあるので、通称ランドローバートッポッキ(何軒か並ぶうちの2軒目が有名)。お店の人に聞いたところ、この場所でもう23年間も営業を続けているそうです。
学生時代によく通い、大人になってからもたまにふと食べたくなる。そんな常連客が多いからか、営業時間は12時から日をまたいで翌1時までと遅いです。飲んだ後のシメにトッポッキを食べに来るという文化が栄州にはあるんですね。それだけ栄州市民を熱狂させる理由は、餅から手作りしていることと、野菜も自前で栽培したものを使うこと。具として入る魚の練り物以外は、すべて手作りというのが味の秘密だそうです。確かに食べてみると、餅そのものが美味しく、単なる屋台料理とはいえないグレードでした。
以上、栄州市民がこよなく愛する地元密着の穴場店4軒。秋の旬グルメを満喫できる3軒とともに、ぜひ栄州まで足を運んで美食三昧を体験してみてください。グルメだけでなく歴史的な見どころも満載。いいところですよ、栄州!
<物件データ>
店名:ランドローバートッポッキ(랜드로버 떡볶이)
住所:慶尚北道栄州市亀城路350番キル15(栄州1洞376-8)
住所:경상북도 영주시 구성로350번길 15(영주1동 376-8)
電話:なし
八田 靖史
1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。