南米大陸の北西部に位置し、日本の約3.4倍の面積をもつペルーの国土は、大きく3つの地域に分けられています。太平洋に面する沿岸部のコスタ、アンデス山脈が連なる高地のシエラ、アマゾン川流域のセルバです。緯度、高度によって気象は大きく異なり、各々のエリアに暮らす人々は、固有の環境を活かしながら生活しています。
シエラは寒冷な上に酸素濃度が低く、人間にとって住みやすい環境とはいえません。この条件は動物や植物にとっても同じです。土壌に根をはる植物は限られ、牛や豚などの家畜を飼育することもできません。ところが恵まれない土地を巧みに利用して、古くから多くの人々が日々の営みを続け独特の文化を育みました。
人間が生きて行くためには食料を確保することが最優先です。アンデスの嶺の斜面を利用した段々畑には、トウモロコシとジャガイモが植えられました。険しい勾配をもつ畑には大きな高低差があるため段差によって気温が異なります。より多くの収穫が得られるように品種改良が加えられ、トウモロコシには色彩的にも千差万別の種類ができあがりました。自然の地形を利用した農耕によって、必要最低限の食料が確保できたわけです。ところが、人間の成長には動物性のタンパク質も必要不可欠です。
標高の高いシエラで人間と共存できた動物は、アルパカとリャマです。両動物ともに海抜3000メートルから5000メートルの高地での放牧が可能なのです。リャマは農作物などを運ぶ荷役用として、アルパカは毛が衣服用に重宝されました。現在ではアルパカのセーターなどは高級品となって、旅行者の格好の土産物となっています。
わが子のように可愛がっていても、他の動物などどこにも見当たらないため、アルパカを貴重なタンパク源とせざるをえないのです。スパイスやハーブを加えて鉄板焼きにすれば、「アルパカ・ア・ラ・プランチャ」です。赤身の肉は脂肪分が少なく、あっさりした風味をもちます。噛んだときに口に広がる肉汁は少なく、パサパサした舌ざわりです。
アルパカの他に、よく食用とされたのがクイです。海抜1200メートル以上の山の岩地や断崖に生息するネズミの仲間で、日本ではテンジクネズミと呼ばれています。皮を剥いで丸焼きにすると「クイ・アル・オルノ」、腹を開いて揚げると「クイ・チャクタード」になります。いずれのメニューもレストランでは、頭、4本の足、尻尾が生前の姿を留めた状態で皿に盛られるため、グロテスクに感じてしまう人もいるかもしれません。体の大きさの割に肉は少な目で、チキンを少し硬くしたような味わいと食感です。
クスコやマチュピチュなど、南米大陸を南北に貫くアンデスの山岳地帯に暮らす人々は、厳しい環境を巧みに活用しながら様々な文化を育んできました。食文化も世界的に類を見ないものです。異郷の地を訪ねると、これまでに想像もしなかった未知の風習に接します。世界各国、地域のソウルフードを味わうことは、各地の文化に触れる貴重な体験となります。