左手に軍手、右手にナイフ、鍋いっぱいの牡蠣をたいらげに
韓国で尊敬する人物を尋ねると、必ず名前があがってくるひとりに李舜臣(イ・スンシン)将軍がいます。16世紀末、文禄・慶長の役で水軍を率い、日本の軍勢を打ち破った人物としてたいへん有名です。
今回紹介する統営(トンヨン)という町は、そんな李舜臣将軍ゆかりの地。韓国の南海岸に面した港町ですが、地名はかつて将軍が水軍の統括本部である「統制営」を置いたことにちなんでいます。また、統営の旧称は忠武(チュンム)といいますが、これも将軍の諡である「忠武公」から名付けられました。ソウルにある忠武路(チュンムロ)という町名なども同じ由来ですね。
さて、そんな統営の名物といえば牡蠣。市内には牡蠣専門の漁業協同組合があるほどで、韓国で流通する牡蠣の8割はこの統営から出荷されています。市内には当然、牡蠣料理の専門店がありまして、統営に行ったらぜひ食べたいもののひとつです。
生牡蠣から始まってまずは韓国の定番牡蠣料理を大紹介
韓国における牡蠣の食べ方ですが、やはり素材が新鮮であれば生(屋台などではなく信頼できる専門店をおすすめ)。センクルと呼ばれる生牡蠣は、そのままつるんと味わってもいいですし、ワサビ醤油や、チョジャンという唐辛子酢味噌で食べても美味しいです。
あるいは、生牡蠣をセリ、ニンジン、タマネギなどの生野菜とともに和えた、クルムチムも定番メニューのひとつ。甘酸っぱ辛い薬味ダレを全体に絡めて味わいます。
クルジョンと呼ばれる牡蠣のチヂミも人気ですね。チヂミというとお好み焼き状に大きく作る場合と、具材に薄衣をつけてピカタのように焼く2種類がありますが、牡蠣の場合は後者が多いです。小麦粉と溶き卵をつけて焼くだけでも美味しいクルジョンになりますので、シーズンになったらご家庭でも試してみてください。牡蠣や衣に薄く下味をつけて、食べるときに酢醤油を添えて。
冬の統営に行ったら絶対に食べるべき殻付きの蒸し焼き
生牡蠣、和え物、チヂミといった牡蠣料理は産地でなくとも味わえますが、写真のクルグイはぜひ統営まで足を運ばねばなりません。「センセンクルマウル テプングァン」という店の看板メニューですが、牡蠣のもっとも美味しい冬場だけの限定商品。卓上のコンロにどでかい鍋が置かれ、これを開けると…。
殻付きの牡蠣がぎっしり詰まっています。メニューとしてはクルグイ(牡蠣焼き)と呼ぶのですが、実際は蒸し焼きのような調理法ですね。左手に軍手をはめて手に取って、自らナイフで殻をむくというのが何よりの妙味。慣れないと戸惑いますが、最初は店員さんが見本を見せてくれます。慣れるとけっこう簡単で、食べるよりも殻をむくほうが楽しい、といった声も出るぐらい。食事とともに、いいアトラクションとしても楽しめます。
でも、やっぱり食べて美味しいのが大事ですよね。なんの味付けもしていないのに、ほんのり塩気が効いていい塩梅。濃厚なミルキィさと鮮烈な磯の香りに包まれて…。
「ああ統営まで来たかいがあった!」
と叫ばずにはいられなくなります。一連の料理はコーススタイルになっており、ほかにも牡蠣の酢豚風とか、牡蠣めしとかが出てくる牡蠣尽くし。11月から2月までがいちばん美味しい最盛期ですので、ぜひともその時期を目指してみてください。
<物件データ>
店名:センセンクルマウル テプングァン(생생굴마을 대풍관)
住所:慶尚南道統営市海松亭1キル19(東湖洞174-1)
住所:경상남도 통영시 해송정1길 19(동호동 174-1)
電話:055-644-4446
牡蠣だけじゃない美食の町における絶品ご当地スイーツ
ひと通り牡蠣の魅力を楽しんだとしても、それだけで終わってはならないのが統営です。魚介でいえばアナゴ、タチウオ、ホヤも名物ですし、サツマイモの名産地でもあります。旧称の忠武(チュンム)にちなんだ忠武キムパプ(ひと口大の海苔巻き)や、うどんにチャジャンミョン(韓国式ジャージャー麺)の黒味噌をかけたウッチャ、といったB級グルメも充実。アルコールに一定の金額を支払うことで、料理が山ほど出てくる「タチ」と呼ばれる居酒屋も有名ですね。とにかく食の面で困ることは一切ない地域です。
そんな中で特におすすめしたいのがこちらのクルパン。大きめのあんドーナツに蜜を絡めたものですが、統営におけるご当地スイーツとして地元では絶大な人気を誇ります。
もう手とか口元とか、べったべたになるんですけどね。1個でもかなりのボリュームですが、うっかりするとついつい2個目、3個目に手が伸びてしまう魔力があります。最初にこれを食べると、ほかの統営グルメが何も入らなくなってしまいますので、くれぐれも食べるタイミングと量だけはご注意を。「オミサクルパン」という店が元祖ですが、本店は品切れが早く、道南店のほうが買いやすいのでおすすめです。
<物件データ>
店名:オミサクルパン本店(오미사꿀빵 본점)
住所:慶尚南道統営市忠烈路14-18(港南洞270-21)
住所:경상남도 통영시 충렬로 14-18(항남동 270-21)
電話:055-645-3230
店名:オミサクルパン道南店(오미사꿀빵 도남점)
住所:慶尚南道統営市道南路110(鳳平洞124-7)
住所:경상남도 통영시 도남로 110(봉평동 124-7)
電話:055-645-3230
八田 靖史
1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。