© Succession H. Matisse pour les œuvres de l’artiste
Crédit photographique : Ville de Nice - Musée Matisse/N. Lavarenne
画家アンリ・マティスといえば、鮮やかな色彩と大胆な切り紙が頭に浮かびます。その色に溢れた作風は、晩年を過ごした南仏のイメージと重なりがちです。
実際、南仏ニースには、オリーブ畑に囲まれたマティス美術館(Musée Matisse, Nice)があり、南国の光の中で、マティスの作を鑑賞することができます。
こんな風に、南の空の明るさとは切り離せないように思えるマティスですが、実は、出身地は、フランス北部のル・カトー・カンブレジという町。リールから70キロメートルほど南東に位置するこの町で、1869年大晦日に生を受けたのです。
エーヌの森の近くにあるこのル・カトー・カンブレジは、今は人口7000人余りの小さな町ですが、昔の僧院や、教会など、印象的な建築物が、町のそこここに残っています。そのうちの一つが、18世紀に建てられたカンブレ大司教の邸宅フェヌロン邸です。
このフェヌロン邸は、煉瓦と石の二色使いの建物で、前は荘厳な門に守られ、後ろには緑多い庭が広がる、まるで宮殿のような優美さを感じさせます。
マティスは、晩年、この生まれ故郷に82点の作品を寄贈。それが、ル・カトー・カンブレジの県立マティス美術館の起こりとなりました。当初、市庁舎に創立されたこのマティス美術館は、その後、上述のフェヌロン邸に移り、今に至っています。
マティスが作品を寄贈するときに寄せたというメッセージには、次のような謙虚な言葉があり、胸打たれる思いがします。「(前略)分かったことは、私が一生をかけたこの仕事は、人類のためだったということです。私を介して、人類に、新鮮な美を垣間見せたのです。つまり、私は仲介者に過ぎません。私がル・カトーの町にこの美術館を開くのは、シーザーにシーザーのものを返すのと同じことなのです。(後略)」
静かな館内は、外の光をうまく取り入れており、明るい色の絵が並ぶ空間が続きます。
若いころの緻密なデッサンから、簡素な図形と、力強い線、色の組み合わせへと変化していくマティスの作品を、じっくり鑑賞するには最適な場所です。
マティス以外にも、ピカソ、シャガール、ミロ、ジャコメッティの作品も展示されており、見応えも十分です。
フランスの北の端と南の端に美術館を持つマティスの魅力、ぜひ実物を前にして感じてみてください。
【データ】
ニース・マティス美術館(Musée Matisse Nice)
住所:164, avenue des Arènes de Cimiez 06000 Nice, France
Tel:(+33) (0)4 93 81 08 08/(+33) (0)4 93 53 40 53
URL:http://www.musee-matisse-nice.org/
開館時間:10 :00〜18 :00
休み:火曜日、1/1、復活祭、5/1、12/25
入館料:10€
県立マティス美術館(Musée départemental Matisse)
住所:place du commandant Richez, 59360 Le Cateau Cambrésis, France
Tel:+33(0)3 59 73 38 06
URL:http://museematisse.lenord.fr/fr/Accueil/tabid/40/Default.aspx
開館時間:10 :00〜18 :00
休み:火曜日、1/1, 11/1, 12/25
入館料:5€(常設展のみ)
(冠ゆき)
(2015/08/23)
冠 ゆき
山田流箏曲名取。1994年より渡仏。大学院での研究の傍ら、大学や専門学校で日本語日本文化講師を勤める。2000年より、ポーランド、イタリア、中国の生活を経た後、2013年フランスに戻る。旅好きでもあり、今までに訪れた国は約40カ国。六ヶ国語を解する能力と多様な文化に身をおいてきた経験を活かし、柔軟かつ相対的視点から、フランスと世界のあれこれを切り取り、webマガジンCafeglobe、とっておきのフランスInfoなどで日本に紹介中。