ナポリから車を走らせること約30分。ポンペイ遺跡はヴェズヴィオ火山の麓に位置するのどかな田舎町です。
紀元前6世紀には既に建設されていたとされるポンペイ。地中海貿易の拠点地として栄えたポンペイは、79年8月24日にヴェズヴィオの噴火によって街丸ごと飲み込まれてしまいます。そのポンペイがなぜ今世界遺産となり世界中から観光客が集まるのでしょう。
それはこの広大な土地で、当時の人々の息づかいや暮らしぶりを想像しながら歩くことができるからではないでしょうか。
「古代ローマ時代の人々」と言葉にすると、遥か遠くのまるで全く関係のない生き物のように思えるのですが、2000年の時を経て発掘された街の姿からは、現在の私たちと同じように家族や愛する人を思い合って、悲劇を迎えた瞬間の感情を生々しく感じられるのです。その生活ぶりや悲劇の瞬間の行動から、彼らの感情を知る時に、彼らのことをとても身近に感じるから不思議です。
子供を膝に抱えた母親の姿や、恋人同士がかばい合うように抱き合っている姿、逃げ惑う人々、それらの遺跡は2000年前の彼らの暮らしをありありと想像させてくれます。
ヴェスヴィオ山の噴火により、街のあちこちでは屋根が落ち、建物が崩れ、小規模な火砕流が起き、人々は先を争って逃げ出して行きました。そして翌朝に起きた大規模な火砕流が、逃げ後れた人々と街を一気に丸呑みしてしまいました。
街は一瞬にして飲み込まれたので、そのままの形や色で2000年間も保存されることとなったのです。18世紀に建造物の完全な形や当時の壁画を明らかにするための本格的な発掘作業が始まり、技術が高度になるにつれてどんどんその姿をリアルに再現されるようになりました。それまで街を埋めていた灰が除去され、劣化進むポンペイ遺跡を1億500万ユーロをかけて修復するプロジェクトが始まりました。
流れてきた溶岩で体が包まれて焼かれ、のちに腐って空洞になったところに石膏を入れて再現された人間や動物の死体などは、まさにこの日を目の前で見ているかのようです。
マリーナ門の入り口で無料の地図を受け取り、まずはフォロから見学します。フォロとは英語のフォーラムの語源となっている、市民の広場という意味です。ですので、周辺には神殿、集会所、バシリカ、議会や行政のための建造物などが立ち並んでいました。フォロの隣に他の石膏や出土品の保管・展示している建物もありますが、貴重なものはナポリ市内のナポリ考古学博物館にあります。時間があればこちらに立ち寄ることをおすすめします。
そして、見逃せないのが円形闘技場(コロッセオ)。奴隷や捕虜たちによる戦いを鑑賞するのが当時の市民たちの娯楽でした。また、演劇にも使われました。コロッセオに隣接して大体育場があります。ここにはプールや公衆トイレもありました。
飛び石の横断歩道などのある路地を見るだけでも、当時の街並がほぼそのまま残されており、排水をよく考えられて作られていたことや、馬車が通るための速度制限をしていたことがわかります。
もう一つの見所は、ツアーなどではオプショナル追加となる秘儀荘。ポンペイの城壁外へ出て数分ほど北西に行ったところに、当時の南イタリアで流行していた「ディオニュソス秘教」の儀式のための大きな邸宅があります。
秘儀荘の見所は、壁に「ポンペイの赤」で描かれた入信のための儀式の様子。ポンペイ城壁内にもいくつか壁画が残されていますが、ここの壁画は保存状態が良く、とても神秘的です。
日本語で秘儀荘と呼ばれるこの建物は、イタリア語ではVilla dei misteri。Villaとは「〜邸」の意で、deiは英語でいうところのof the、Misteriはミステリアス、神秘・謎・不可思議といった意味。
当時、ポンペイは多神教が認められていました。しかし、後のキリスト教時代には邪教としてこの壁画も取り壊されていたことでしょう。それが運命的にヴェズヴィオ火山の噴火により埋まってしまったこの壁画を、現在の私たちが目にすることができるのです。
残酷な運命が今の私たちに歴史の重みを見せてくれているのかと思うと、このポンペイ遺跡を一度この足で歩いてみたいと思いませんか。
ポンペイ遺跡へのアクセスは、ナポリ中央駅を入って右にある私鉄のヴェズヴィオ周遊鉄道で約30分。POMPEI SCAVI(ポンペイ遺跡)駅下車。電車は30分に一本程の割合で出ています。
【データ】
営業時間:11月1日〜3月31日 8:30 〜17:00 (最終入場 15:30)
4月1日〜10月31日 8:30 〜19:30 (最終入場18:00)
休み:1月1日、5月1日、12月25 日
チケット:13ユーロ(毎月第一日曜日は無料)
電話番号:+39 081 8575111
E-mail: info@gaiaguide.it(ガイド予約)
ゆき
東京芸術大学大学院修了後イタリアに国費留学。ナポリ国立音楽院修了。2012年サンカルロ歌劇場主催オペラ「ラ・ボエーム」に出演。ゴッドファザー等の映画の影響で南イタリアをこよなく愛す。現在イタリア生活5年目。音楽業の傍ら、翻訳やバイヤーもこなす。治安が悪く、ゴミ問題やスリが跡を絶たないナポリの街をいかに安全に楽しむか、そして「ナポリを見て死ね」の言葉の深さを伝えたいです。