地球上の遺跡の中には現代の科学調査をもってしても、作り方や作った理由が解明できないものが数多くあります。世界の謎の筆頭格を集めたのが世界の七不思議でしょう。でも、不思議の種は7つに留まるものではありません。神秘のベールに包まれた遺物は数え切れません。ナスカの地上絵もその一つと言えます。
南米大陸を南北に走るアンデス山脈の麓の東西40キロ、南北50キロの大地に、夥しい数のアート作品が刻まれています。ナスカの地上絵は地球規模のアース・アートです。熱帯の厳しい陽射しによって乾ききった大地は、人を寄せつけません。太古の昔と現代の気象条件は大きく異なるでしょうが、ここに人々が居住できるとは到底思えません。ところが、プレ・インカの時代に大地をキャンバスとして、幾何学図形、動物、魚、虫、植物などが描かれたのです。
太陽の光は地表に転がる石を酸化し、暗赤褐色に変色します。この石を表面から数十センチ取り除くと、明るい白色の石が露出してきます。表面の石を除去すれば、黒地の地肌に白色の輪郭線が描けるのです。ナスカの地上絵は、地球のエネルギーが作りあげた地表を僅かに加工することによって産まれたのです。
広大なエリアに点々とする図形の規模は大きく、地上では何が描写されたかはわかりません。全体像を捉えるには上空に飛び出すしかないのです。ところが作画されたのは飛行機などなかった時代です。どのように輪郭線をデザインしたのか、また何故地表に図形を描いたのかは、まだ解き明かされていません。
謎を解明すべくナスカに行くには、ハイウエイバスを使うことになります。国内フライトも鉄道もないのです。首都のリマからであれば、パン・パシフィック・ハイウエイを約7時間走ります。
ナスカのバスターミナルを出ると、前後左右に旅行社が溢れかえっています。全ての旅行社の看板プランは、地上絵を上空から見る遊覧フライトです。10社近くの航空会社が遊覧用のセスナ機を準備しているのです。セスナ機はパイロットを含めて12人乗りの中型機と、4人乗りの小型機の2種類です。いずれも容易に予約ができ、空港との送り迎えは旅行社がアレンジしてくれます。
空港に着きカウンターで素早く搭乗手続きを済ませ、セスナ機に乗り込みます。ジャンボ機に乗り慣れた人が、先頭の小さなプロペラに短い翼を間近で見ると不安に感じるかもしれません。安定感に欠けるかもしれませんが、上空数百メートルを自由に飛ぶにはこのサイズが適当なのでしょう。
乗務員はパイロットとガイドの2名です。パイロットは機体を自由自在に操り、ガイドは地上絵の上空に来る度に客席の方を振り返り説明をしてくれるのです。地上絵が近づくと、パイロットは巧みに操縦桿を操作します。
先ず右側に座っている人に見せるため、右の翼を下に飛行します。傾斜した姿勢で地面に平行に数十秒間飛んだかと思うと突然、急旋回し始めます。機体の左側の人が地上絵を見られるように機体を左に傾けるのです。地上絵を食い入るように見つめた直後には、手すりを握りしめ足を踏ん張らないと外に投げ出されそうになります。お尻の下で青空がクルクルと回りスリル満点です。
大半の遊覧フライトは、クジラ、三角形、フクロウ人間、サル、キツネ、海鳥、クモ、ハチドリ、サギ、トンボ、手、海草、トカゲの順に13の地上絵の上空を飛びます。最初の旋回のときはあたふたしてしまいますが、13回目ともなると余裕が生まれてきます。
ナスカの地上絵の遊覧フライトでは、セスナ機のスリルを味わいながら、古代ナスカの人々が創造したアートを鑑賞することができるのです。