エジプトを舞台にした映画は数多くありますが、中でも有名なのがアガサ・クリスティーの推理小説を映画化した「ナイル殺人事件」。
今から37年前の公開ということで、若い読者の中にはご存知ない方もいらっしゃるかも知れませんが、はまり役とも言えるピーター・ユスティノフが探偵ポワロを演じ、共演も米英の名優を揃えた豪華キャスティング、エジプトファンでなくとも見応えのある映画です。劇中繰り広げられた殺人事件とその犯人探しは、主にナイルクルーズ船が舞台となりました。今ではほとんど姿を消してしまった蒸気船が映画では使われていますが、15部屋ほどあろうかと思われる客室は豪華な内装で、当時ナイル河の船旅がごく限られた富裕な旅行者のものであったことが伺い知れます。
その後、時代とともにクルーズ船は近代化、そして大型化し、現在ほとんどの船が全長75m、高さは約11mの4層構造、客室は60室を超えます。屋上のサンデッキにはプール、船内にはラウンジ、ジム、マッサージルームなど、5星ホテル並みの設備が整っています。船室も5星ホテル同様の快適さで、広さ平均20?、ベッド2台にソファーやテーブルが置かれ、浴室はバスタブ付、ミニバー、冷蔵庫、テレビ、金庫なども備えられ、これが5星クルーズ船の標準的設備となっています。
「ナイル殺人事件」の時代には限られた人々のレジャーであったナイルクルーズですが、今では誰もが手頃な値段で、しかも更に快適な船旅を楽しめるようになったのです。
ルクソールとアスワン間、約200kmを旅するナイル河クルーズ、人気の理由はいくつもありますが、まず最初に挙げられるのは、楽に南エジプトの観光が楽しめること。陸路移動ではホテルが変わる度に荷造りをして、また長距離移動でバスに揺られ、体力を消耗します。クルーズでは3泊、または4泊の滞在中荷物はそのまま、船室でゆったりくつろいでいる間に観光地に到着です。
次に、雄大なナイル河と、両岸の緑豊かで長閑な風景を楽しみながら、船内でゆったりした時間が持てること。更にクルーズ船では、世界各国から集った乗船客が参加して、ゲームやショーを楽しむ機会もあり、世界中のツーリストと交流を楽しみたい方にもお薦めです。
また船内レストランでは、ナイル河を眺めながら毎回バラエティーに富んだ食事を楽しめます。夕食時の船内レストランは昼間とは少し雰囲気が変わり、乗船客は思い思いにおしゃれをして集まります。クルーズ船ならではの華やいだムードを楽しめるひとときです。
ナイルクルーズの乗船地はルクソール、またはアスワンの2箇所ですが、ルクソールから乗船すると4泊5日、アスワンから乗船すると3泊4日の船旅となります。中にはルクソール発3泊、アスワン発4泊としている船もありますがこれらは少数派です。
航行中、エドフとコムオンボに寄港し、ホルス神殿、コムオンボ神殿を観光します。ルクソールとエドフ、そしてエドフとコムオンボ間は航行時間が長く、この間船内ではアフタヌーンティーがサービスされます。サンデッキでお茶を飲みながらナイルの風景を楽しむ時間は正にクルーズの醍醐味。ルクソールとエドフ間を航行中、もう一つの楽しみがあります。それはエスナ水門の通過です。この水門で船は注水と排水を繰り返しながら、ナイル河の6mの水位差を通過して行くのですが、日中の通過なら是非様子を観察してみて下さい。
エジプトはナイルの賜物。ヘロドトスのその言葉通り、ナイル河が運んできた肥沃な土が両岸を覆い農耕が盛え、そして偉大な文明が生まれました。そして今も、エジプト人はナイル河の恵みを受けて生活を営んでいます。エジプト文明の根源、エジプトの母とも言える雄大なナイル河に抱かれ、南エジプトをゆったり旅することで、遺跡探訪に留まらず、自然とともに生きる農村の人々、この地方独特のゆったりした時の流れなど、エジプトの魅力を更に深く感じて頂けることでしょう。
西尾 昌昭
旅行業界歴27年、添乗員からスタートして、その後、海外旅行商品企画に携る。ハワイ、アメリカ本土、アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカと商品企画を行い、特にエジプトの魅力にはまる。現在は、エジプトを中心に活動している。