1911年7月24日、アメリカの探検家ハイラム・ビンガムは、アンデスの峰の中に巨大な遺跡を発見しました。マチュピチュは、標高3400メートルの高地に築かれたインカ帝国時代の集落です。天空に浮かぶ都市は、数ある世界遺産の中でも屈指の人気を誇っています。
マチュピチュを囲むウルバンバの渓谷には、数百年前に作られたインカ道が今でも残っています。アンデスの土を自分の足で踏みしめながらトレッキングをしてマチュピチュを制覇できれば、計り知れない感動がえられることでしょう。でもそれには相当の体力と時間が必要です。日本から海を越えて行く場合は、やはり交通機関を利用する方が効率的でしょう。
ところが、マチュピチュの周辺にはハイウエイは走っていません。鉄道が唯一のアクセス手段となります。マチュピチュ行きの列車にはクスコから乗ることもできるのですが、クスコからオリャンタイタンボまではバスを利用し、そこからマチュピチュ行きの列車に乗る人が多いようです。マチュピチュとオリャンタイタンボには約800メートルの標高差があり鉄道ではスピードを出すことができないため、バスの方が便利なのです。しかもクスコよりもオリャンタイタンボの方が列車の数が多いのです。
観光客をマチュピチュに運んでくれるペルーレイルには、グレードの高い列車から順に、ハイラム・ビンガム、ビスタドーム、バックパッカーの3種類があります。最高級のハイラム・ビンガムに乗るには、乗車料金片道400ドル前後の大きな投資が必要です。高いサービスが受けられるに越したことはありませんが、グレードを下げることに何の不安もありません。
片道料金50ドル前後のバックパッカーでも、乗り心地は極めて快適です。落ち着いた雰囲気の内装の車内に並ぶシートはとてもゆったりしています。座席を囲むのは大きなガラス窓です。窓には映画館のスクリーンのように、列車の進行に従って周囲の景観が映し出されていきます。ウルバンバ川の河川敷から絶壁が切り立つ姿をパノラマビューで楽しむことができるのです。どの車両にも荷物置場が確保されており、大きなカバンを手元に置く必要もないのです。
中間ランクのハイラム・ビンガムには、片道料金約70ドルで乗車することができます。バックパッカーとの違いは、窓ガラスの面積が少し広くなることと、軽食のサービスがあることです。それに加えて車内でダンスやファッションのショーを楽しむことができることです。
ハイラム・ビンガムの車内での食事が終わると突然、太鼓の音が鳴り響きアンデス地方の奇祭に参加するような姿をしたダンサーが登場します。ユニークなダンスをしながら先頭車両から最後尾まで通り過ぎます。その後は、ファッションショーです。アルパカやビクーニャの毛を使ったセーターやジャケット、マフラー、ストールが乗客の目を引きつけます。車内販売もしていますが、金額はかなりの高額です。特にビクーニャのストールなどは一年間の販売数量を聞いてみたくなります。
どの列車に乗っていても、マチュピチュに近づくに従って、ボルテージはどんどん上がってきます。ウルバンバの川の流れがアンデスの大地を深くえぐり取った谷間に入り、細いトンネルを幾つも通過するようになるとマチュピチュは間近です。オリャンタイタンボから1時間30分強で、マチュピチュ駅に到着です。マチュピチュ駅に到着するなり遺跡に向かう人もいれば、改札ゲート手前の公園のようなスペースで一休みしながら計画を立て直す人もいるようです。