世界的に知られた観光スポットを訪れたときの感動は、いつまでも鮮明な記憶となって残ります。でも、せっかく海を越えて異国をたずねたのだから、現地の人たちの生の生活にも触れたいものです。それに最も適した場所は市場でしょう。
南米ペルーのクスコは、高嶺が連なるアンデス山脈の標高3400メートルの高地に広がります。15世紀からはインカ帝国の帝都として栄えました。首都の座はリマに譲りはしたものの、現在でも約30万人の人々が暮らすペルー有数の都市です。
街の中心は、昼夜を問わず人の姿が絶えることのないアルマス広場です。公園に面するラ・コンパニーア・デ・ヘスス教会の正面からマルケス通りを南東に向かうと、サンタ・クララ教会の先に歴史感を漂わせた大きな市場があります。
メルカド・サン・ペドロは、「クスコの胃袋」の愛称でも呼ばれるクスコの中央市場です。整然と積み上げられた石の門を左右に見ながら中に足を踏み入れると、電車の駅舎に入り込んだような錯覚に襲われます。等間隔に建つ鉄骨に屋根が渡しただけのシンプルな構造です。
柱と柱の間には、隙間なくぎっしりとお店が並んでいます。ショーケースのような洒落たものは一切なく、棚やテーブルに商品が雑然と並べられています。飾り気はなくても、商品の生の姿を間近で直視できるため、買物をする人は厳しい眼で品物の選択をすることができます。お店の人は売り込みに余念がありません。威勢のいい声が屋根にこだまし活気が溢れています。
広々とした市場の中はいくつかのエリアに分かれ、食料品コーナーにはあらゆる種類の野菜や果物が山のように積まれています。バナナ、オレンジ、パパイヤ、アボカド、グレープフルーツなどがずらりと並ぶと彩り豊かです。
アンデスの名産品のトウモロコシの中には真黒な品種まであります。
豆類もピーナッツ、アーモンド、ピスタチオ、ダマスコなどバラエティー豊富です。何種類か買って持ち歩けば、格好のおやつになること間違いなしです。
チーズコーナーでもあらゆる種類のチーズが揃っています。しかも、人の顔より大きなビッグサイズです。
そして、メインディッシュとなる肉類も豪快な姿で売られています。日本ではパック詰めでしか見ることのできない肉が、解体されたままの状態でテーブルの上にドカンと置かれています。丸ごと買うこともできますが、適当な量に切って目方で値段を決める量り売りが大半です。日本では見かけなくなった光景が、クスコの市場の中で見ることができるのです。
また、鶏肉コーナーに行けば、皮を剥いだだけのリアルな姿も登場します。こちらの方は一羽丸ごと買って帰る人が多いようです。
メルカド・サン・ペドロにはクスコの市民の胃袋を満たす食材が凝縮しているのです。さらに、奥に足を運ばせると民芸品、日用品もあります。服飾品やアクセサリーにはアンデスの香りが染み込んでいます。市場価格でお土産を買えば、市中の土産物屋より断然お得です。
広々とした市場の中を歩き回ってお腹がすいてくると、自然とフードコーナーに足が動いてしまうものでしょう。食事時間でなくてもフードコーナーは地元の人でいつもいっぱいです。値段と味に間違いがないことを裏づけています。メニューも豊富で、セビッチェやカウカウなどのペルー料理をお手頃価格で味わうことができます。
メルカド・サン・ペドロはクスコ市民の日常の生活の様子を見ることができる格好のスポットです。現地の人の息遣いを肌に感じるばかりでなく、お土産の調達から食事までできるオプションつきです。クスコの中心街から徒歩10分前後のアクセスですから、帝都観光の合間に是非訪れたいところです。