暑い夏を迎える前にぜひ紹介したいソウルのおすすめ冷麺店2軒
自宅近くの公園にアジサイとヒマワリが並んで咲いていました。暑い6月という気分がわっと高まったので、涼しげな冷麺の話を書きたいと思います。キンキンの冷麺は夏の韓国における格別の喜び。ステンレスの大きな器を両手で持って、スープをぐーっと飲んで(韓国の食卓マナーでは器を持ってはいけないが、冷麺だけは例外とする人も多い)、間髪入れずコシのある麺を勢いよくすすって。ああ、冷麺食べたい。
みなさんは冷麺というとどんな姿を思い浮かべるでしょう。韓国では冷麺の種類を大きくふたつに分け、まずスープのある冷麺をムルレンミョンと呼びます。ムルが水、レンミョン(単独ではネンミョン、発音変化でネがレになる)が冷麺を指し、「水=スープ」のある冷麺という意味です。
そしてもうひとつがビビムネンミョン。辛い薬味ダレを麺と絡め、よくかき混ぜてから味わう冷麺です。こちらはピビムが混ぜる、ネンミョンが冷麺ということで、混ぜ冷麺という意味になります。たいていの冷麺店ではどちらを得意とするかが明確に分かれていますので、注文前に確認しておくのも重要です。
平壌式の冷麺を味わうなら1950年創業の老舗店を推薦
数ある冷麺店の中から、お気に入りの2軒を紹介します。まずはスープのある冷麺、ムルレンミョンを自慢とするお店から。ソウルの乙支路3街(ウルチロサムガ)にある「平来屋(ピョンネオク)」は1950年創業の老舗です。
店名の「平来屋」とは「平壌(ピョンヤン)から来た店」という意味で、平壌式の冷麺を提供しているということ。冷麺の本場は大きく北朝鮮の平壌と、咸興(ハムン)に分かれ、平壌冷麺の場合はそば粉を中心として麺を作り、咸興冷麺はジャガイモ、サツマイモなどのでんぷんで麺を作るとの違いがあります。
「平来屋」ではほどよい噛みごたえのそば麺を、肉ダシとキムチの汁で作ったスープに浸して提供。うま味があって、すっきり爽快感も楽しめるのが絶妙です。
嬉しいのは副菜としてタンムチム(鶏肉の和え物)がついてくること。酸味の効いたピリ辛味で、これを冷麺と一緒に食べても美味しいです。
一緒に出てくるコップの液体も、水ではなく温かな鶏スープ。じんわりと胃に染み込むうま味がたまりません。
ソウルでもレアな存在、仲間とシェアして食べる鶏冷麺
副菜に鶏肉の和え物が出て、水がわりに鶏スープがついてくる店。冷麺店でこれだけ鶏にこだわる理由のひとつに、このチョゲタンという名物の存在もあります。平壌を中心とした平安道地方の郷土料理で、漢字では「醋鶏湯」と書き、酸味の効いた鶏肉のスープという意味です。
冷たい鶏スープにそば麺を加え、裂いた鶏肉と、サンチュ、キュウリ、梨を追加。必ず2人前からの注文になるので、仲間とシェアして食べる鶏冷麺という雰囲気でもありますね。
大勢で行くときは平壌式チェンバンもおすすめ。チェンバンというのはお盆のことで、お盆状の平たい鍋に牛肉や野菜、キノコなどを盛り付け、煮ながら味わう料理です。追加でごろんと大きなマンドゥ(餃子)を加えて食べても美味。
<店舗データ>
店名:平来屋(평래옥)
住所:ソウル市中区マルンネ路21-1(苧洞2街18-1)
住所:서울시 중구 마른내로 21-1(저동2가 18-1)
電話:02-2267-5892
コシの強い麺が持ち味、サツマイモで作る咸興式の冷麺
ムルレンミョンを紹介したら、ピビムネンミョンの店も紹介しましょう。ソウルの五壮洞(オジャンドン)にある1953年創業の「五壮洞興南チプ(オジャンドンフンナムチプ)」です。店名の興南(フンナム)は、冷麺の本場である咸興の一部に属する地名で、「五壮洞にある興南の店」と、こちらも冷麺の本場を掲げているという訳です。
そば麺を用いる平壌冷麺に対して、咸興冷麺の特徴はでんぷんで麺を作るところ。「五壮洞興南チプ」ではサツマイモのでんぷんだけで麺を作るそうです。ピビムネンミョンのみならず、カレイの刺身を薬味ダレと和えて麺に載せたフェネンミョン(刺身冷麺)もオススメです。
ムルレンミョンの用意もあり、こちらは牛骨でダシをとったスープに、同じくサツマイモでんぷんの麺を入れています。食べ方は自由でよいですが、少量のお酢とカラシを加えるのがおすすめとか。また、ピビムネンミョンのほうには、ゴマ油と砂糖を入れるとよい、と店の方に教えていただきました。
「五壮洞興南チプ」を出てちょうど目の前にあるのが中部市場。昨年10月にリニューアルされ、メインストリートにアーケードがついてきれいになりました。海苔や昆布、干物などの乾物が自慢の市場なので、腹ごなしのショッピングにも最適。うっかりすると、屋台のもち米ドーナツとか、キビ餅とかをまた食べちゃったりもするんですけどね。オヤツは別腹! という方へのオマケ情報でもあります。
<店舗データ>
店名:五壮洞興南家(오장동 흥남집)
住所:ソウル市中区マルンネ路114(五壮洞101-7)
住所:서울시 중구 마른내로 114(오장동 101-7)
電話:02-2266-0735
八田 靖史
1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。