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エビを食べたらトリガイも食べたくなる漁港〜ただし同時には不可

   
八田 靖史
八田 靖史
 

冬から春にかけてはトリガイ、秋はエビが美味しい港

南塘港へは洪城総合ターミナルから南塘行きバスに乗車

カレンダーを見てハッとして、行かねばとの思いに突き動かされる町があります。ソウルから南へ下って2時間弱。忠清南道の道庁所在地である洪城(ホンソン)という町に到着し、中心部からさらにローカルバスへと乗り換えて1時間ほど行くと、潮風たなびく南塘港(ナムダンハン)が待っています。田舎町の小さな漁港という風情ではありますが、こう見えて韓国の美味しいもの好きにはなかなか有名なところなんですね。

港の中央に位置するトリガイとコウライエビのオブジェ

そんな南塘港の魅力を何よりも雄弁に物語るのがこのオブジェ。大きくバッテンを繰り出しているように見えるのがトリガイで、その下にでれっと寝そべっているのがコウライエビ(大正エビ)です。この両者こそが、まさに南塘港の象徴と言えましょう。

ただし、両雄並び立たず。

・トリガイ(1〜3月が旬)
・コウライエビ(9〜10月が旬)

ということで、両方をいっぺんに食べることはできません。

テハグイ(コウライエビ焼き)は鍋で蒸し焼きにする

初めて訪れたのは秋だったので、まずはコウライエビを注文。鍋料理のようにも見えますが、テハグイと呼ばれるコウライエビの焼き物です。

ぷりぷりのエビ焼きと、生エビの薬味醤油漬けに悶絶

立派なサイズのコウライエビ。身の弾力と甘味がすごい

焼き上がったテハグイ(コウライエビ焼き)がこちら。鍋の上に粗塩を敷き詰めておき、その上で蒸し焼きにします。

それにしても立派なエビでしたねぇ。大きいというよりも、むしろ太い。腹まわりというか、腰まわりというか、肉付きのよいグラマラスなエビが真っ赤に焼けて、たまらない香りを振りまいて。

お店の方がハサミでチョキチョキと頭を落としてくれるので...。

頭はハサミで切ってさらに焼く。先に身のほうから賞味

最終的にはこんな感じで皿に盛られます。殻をむいてかじりつけば、ぷりっぷり。肉厚なところはブツンと音を立てて弾けるような感じで、美味しいエビのエキスもほとばしるようにジューシー。殻をむく手が止まらず、夢中で皿上のエビを食べ尽くしました。

生のコウライエビを薬味醤油に漬け込んだテハジャン

さらに、珠玉のもう1品。

生のコウライエビを薬味醤油に漬け込んだ、テハジャンと呼ばれる料理です。ワタリガニを漬け込んだカンジャンケジャンも有名ですが、そのエビバージョンだと思ってください。日本風の解釈ならエビのヅケですね。

醤油の芳ばしい塩気がエビの甘さを強調し、これもまた悶絶するほどの絶品。もう秋の間中ずっとここでエビを食べていたい、と思えるほどに幸せな味わいでした。

かつて日本にも輸出したトリガイが地元でも貴重品に

店頭に活きたままのトリガイが並び、注文ごとにさばく

季節が変わって南塘港の新春。

秋に食べたコウライエビがあまりに美味しかったので、2月にもう1度南塘港を訪れました。今度のお目当てはトリガイです。

南塘港では90年代から突然とれるようになったという

日本では寿司ネタとして人気ですが、通年で出回っているのは冷凍物が多く、生トリガイは春先から初夏だけのお楽しみ。南塘港では少しずれて1月から3月までが旬です。

トリガイの下ごしらえ。小さなナイフで内臓だけを除く

かつては日本にも多く輸出していたそうですが、最近は韓国内での需要が多く、むしろ南塘港のトリガイは奪い合いといってもいいぐらいの貴重品となりました。食べたいならば産地へ、ということでシーズンの混雑度も年々増しているそうです。

トリガイの甘味が口中に広がる極上物のしゃぶしゃぶ

トリガイのしゃぶしゃぶ。4人前で1kg(殻付き)程度

南塘港のトリガイはしゃぶしゃぶが定番。韓国語でトリガイはセジョゲと言いますが、しゃぶしゃぶは日本語がそのまま使われてセジョゲシャブシャブとなります。

白菜、ホウレンソウなどの入った野菜スープで熱を通す

日本でトリガイというと、「足」と呼ばれる先端を食べることが多いですが、韓国では内臓だけを除いて、貝柱もヒモもついた状態で出てきます。日本の寿司店で見るトリガイから考えると倍ぐらいに見えますね。

これを野菜たっぷりのスープにさっとくぐらせて口に運ぶと、見た目よりも大きくて口の中がいっぱいに。特有のシャキッとした食感が心地よく、しかも噛めば噛むほど芳醇な甘味がにじみ出てきます。そこへ貝柱の肉厚な感じと、ヒモのコリコリも加わって...。

「なんて贅沢な味なんだ!」

と感激にむせび泣きました。

セットで注文すると蒸し牡蠣や刺身などもついてくる

コウライエビもトリガイも値段は時価ですが、だいたいひとり3000円ぐらいを想定して行けば充分楽しめるかと。たいていはセットメニューなので、牡蠣やアカガイ、ナマコ、ホヤなどいろいろな魚介料理を一緒に味わえます。

オススメの店は「内浦(ネポ)フェッチプ」。

「行かねば!」

と思った方はカレンダーと相談のうえ、1〜3月か、9、10月を目指してください。どちらから行ってもいいですが、ひとつ食べたら、絶対にもうひとつも食べたくなること間違いないなし。2度訪れて、2倍以上に幸せな町です。

余裕があったら、南塘港から車で30分程度。同じ洪城郡内にある広川(クァンチョン)の「洞窟内で寝かせるアミの塩辛」もハシゴしてみてください。いいお土産ができます。

<物件データ>
店名:内浦フェッチプ(내포횟집)
住所:忠清南道洪城郡西部面南塘港路210-1(南塘里452-1)
住所:충청남도 홍성군 서부면 남당항로 210-1(남당리 452-1)
電話:041-633-9480

八田 靖史

八田 靖史
1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。

    

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