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炭酸泉で煮込んだ丸鶏が自慢の町〜マッコリがつないだ縁とともに

   
八田 靖史
八田 靖史
 

炭酸泉で煮込んだ丸鶏が自慢の町〜マッコリがつないだ縁とともに

紅葉の季節に撮影した注山池。四季折々の姿を楽しめる

かつて短い期間でしたが、東京の三河島というところに住んだことがあります。そのとき思ったのは、東京人であっても三河島を知らない人が多いんだな、ということ。東京都荒川区に位置し、山手線の日暮里駅から常磐線でわずかひと駅。僕にとっては便利で住みやすい町でしたが、住まいを問われて三河島と答えたときの、なんともいえない「どこそれ?」という表情が印象に残っています。

ところがある一部の人たちに三河島というと......。

「へぇ、いいですねぇ!」

という反応が返ってきたりも。その一部というのがほかならぬ韓国ファンという人たちで、三河島は歴史の古いコリアンタウンでもあるんですね。この地域には戦前から朝鮮半島の人たちが多く移り住んでおり、現在も韓国料理店、食材店が至るところに点在しています。

済州市から寄贈された荒川区役所内のトルハルバン

また、移り住んだ人たちの多くが済州島出身者であったことから、荒川区役所前にはトルハルバン(石のおじいさん)と呼ばれる島の守り神が寄贈されて立っています。

というところまでを前置きとして、冒頭の写真は慶尚北道青松(チョンソン)郡にある周王山国立公園で撮ったもの。18世紀初頭に作られた注山池(チュサンジ)という貯水池で、映画の撮影などにも使われたとても美しい場所です。三河島時代に行きつけだった韓国料理店のママさんがこの地域の出身で、何度となくその魅力を聞かされてきました。自然が美しく、美味しいものもたくさんあります。

温泉地で味わう丸鶏料理は炭酸を含む湧き水がポイント

炭酸泉の湧き水。周王山地域は有名な温泉地でもある

青松の食を語るうえで欠かせないのが水。美しい自然の残る町だけあってきれいな湧き水があちこちにあり、しかも韓国においては珍しく炭酸を含んでいるのが特徴です。達基(タルギ)地区、新村(シンチョン)地区の2ヶ所が特に有名ですが、そこではその炭酸泉を利用したこんな料理が名物となっています。

タッペクスク。高麗人参などの韓方材も一緒に煮込む

タッペクスクと呼ばれる丸鶏の水炊きですが、炭酸泉を使って煮込むというのが大きなポイント。飲食店ごとに井戸を持っていて、そこから汲み上げた水で調理をします。丸鶏のままどーんと出てくるのを手で食べやすい大きさにちぎり、粗塩にちょっとつけて食べると、シンプルながら思わず夢中になる味わいです。

中央にナツメを浮かせた鶏のスープともち米ごはん

そして、また美味しいのが鶏を煮込んだスープですね。同じく炭酸泉で煮込んだもち米のごはんが添えられており、これをスープに浸して味わうことで、鶏のエキスを余すところなく味わうことができます。

タップルコギは鶏肉を叩いて味付けのうえ網焼きにする

このタッペクスクは煮込むのに時間がかかるので、事前に予約をしておくか、またはサイドメニューのタップルコギ(鶏肉の網焼き)で間をつなぐのがオススメ。コチュジャン味の鶏焼肉を肴にマッコリや焼酎を飲みつつ、ゆるゆる待つのも定番です。

<店舗データ>
店名:ヨンチョン食堂(영천식당)
住所:慶尚北道青松郡青松邑薬水キル54(釜谷里286-11)
住所:경상북도 청송군 청송읍 약수길 54(부곡리 286-11)
電話:054-873-2387

飲んで実感、水自慢の地域ではマッコリも美味しい

青松で親しまれている周王山濁酒の「周王山」マッコリ

なお、青松地域で親しまれている地マッコリは、周王山濁酒の「周王山(チュワンサン)」と、青松醸造場の「注山池(チュサンジ)」の2種が有名。いずれも地元の自然から名前をとった銘柄ですが、ここからも美しい自然のイメージが伝わってきます。先のタッペクスクもそうですが、水のいい地域であるがゆえに、マッコリのほうもさすが逸品。すっきりした飲み応えで、ぐいぐいといけます。

周王山濁酒でのマッコリ造り。大きなタンクで醸造する

縁あって、実際に周王山酒造の生産現場も見学させていただきました。個人的にこのマッコリ造りを見られたのは大きな感慨があったのですが、その理由というのが冒頭でも書いた三河島の韓国料理店。

行きつけだったその店では酒造免許をわざわざ取得してマッコリを手造りしており、その技術はこの周王山濁酒で学んだといいます。日本にいながらにして、青松式のフレッシュなマッコリを味わえるのは貴重ですよね。

<店舗データ>
店名:周王山濁酒(주왕산탁주)
住所:慶尚北道青松郡府東面ハサメ1キル16-1(下宜里623-7)
住所:경상북도 청송군 부동면 하삼의1길 16-1(하의리 623-7)
電話:054-873-5009

東京都内で自ら本場直伝のマッコリを造る韓国料理店

三河島の「ママチキン」。マッコリ好きには有名な1軒

こちらがその三河島にある韓国料理店。20人も入ればいっぱいの小さな店ですが、裏にマッコリの醸造場を併設しており、常時できたてのマッコリを楽しめます。店で飲む場合はヤカンで出てきたり、大人数だとバケツで出てきたりとワイルドですが、きちんとボトリングされて市販もされています。その銘柄もやっぱり「周王山」。

自慢のフライドチキン。辛味ダレを絡めたものもある

なお、店名が「ママチキン」であるように、看板料理は揚げたてのフライドチキン。アツアツを手で持ってかぶりつくと、カリッとした衣の中から肉汁がぴゅるぴゅると飛ぶジューシーな仕上がりがたまりません。

本場で食べる炭酸泉で煮込んだ丸鶏も絶品ですが、気軽に行ける三河島のフライドチキンもまた絶品。昔ながらのコリアンタウン散策とともに、出来たてマッコリと揚げたてチキンを楽しむというのもオツな趣向です。

<店舗データ>
店名:ママチキン
住所:東京都荒川区西日暮里1-7-6
電話:03-3801-4156

八田 靖史

八田 靖史
1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。

    

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