昼から飲める市場と絶品カニ料理があなたを誘う島
市場が好きです。食材と喧噪にあふれた空間を歩いていると、なんとも気分が高揚し、あれを食べたい、これも食べたいという鼻息が荒くなります。
冒頭の写真は、江華島(カンファド)の風物市場(プンムルシジャン)。ソウルの西にあって、仁川(インチョン)広域市に属する島ですが、歴史的な見どころが多いことから大勢の観光客が訪れます。
写真はユネスコの世界遺産にも指定された支石墓(古代人の墓)ですが、ほかにも神話上の始祖である檀君が初めて降臨した摩尼山(マニサン)ですとか、韓国最古の寺院とされる伝燈寺(チョンドゥンサ、381年創建)、高麗時代に臨時の都となった高麗宮址(コリョグンジ)、19世紀後半に日本との武力衝突があった草芝鎮(チョジジン)など。長い歴史の要所要所でしっかり顔を出してくる重要な島です。
歴史ファンにはまさにうってつけの観光地ですが、それでいて美味しいものも山ほどあるというのが何よりの魅力です。
韓国人のキムチ作りに欠かせないアレがこの島の名産品
江華島風物市場は本来2と7の付く日に開く五日市場。市の立つ日には建物の外にも露店が集まってなんとも賑やかな姿を見せてくれます。ありがたいのはそれ以外の日でも、建物の中に入れば普通に営業しているところ。ざっと眺めるだけでも、江華島の豊かな食文化がよく見てとれます。
まずこの市場で目立っているのがセウジョッ(アミの塩辛)。
韓国ではキムチの味付けにも欠かせない大事な塩辛ですが、江華島沖ではアミが豊富にとれるため昔からセウジョッ作りが盛んでした。店の人に頼んで味見をしてみると、舌がジンとくるほどしょっぱいですが、噛み締める中から甘味、うま味がにじみ出てきます。とれた時期によって値段も変わるのですが、陰暦の5、6月にとれたものは身も立派で味わいが深く、秋にとれたものは身が小さいぶん安価で買えます。
魚も山ほどありますが、江華島といえばコレ。韓国語ではペンデンイ、日本語ではサッパ(岡山でママカリ漬けにする魚)と訳されることが多いですが、実際はツマリエツというカタクチイワシ科の魚を指します。旬のド真ん中は5月頃ですが、最近は人気が高まったことで、冬の時期にも南のほうから急速冷蔵の状態で運ばれてくるそうです。
これらをひと通り眺めた後、市場の2階に上がってみると...。
市場の2階に上がってみるとこんな素敵な光景に出合える
こんな感じにマッコリをグビッと飲めるお店が集まっています。観光ついでに昼間から飲んでいる人も多く、好きな人にはたまらない雰囲気です。
早速、ペンデンイの刺身和えを注文。生野菜やリンゴとともに甘酸っぱ辛いタレに絡めてあります。サイズ的にもちょうどコハダや小さめのアジを食べているような感じ。脂もしっかり載っていて、青魚らしい風味も楽しめます。
こちらはペンデンイの焼き魚。多めの油で焼いているので表面はややガサッとした感じですが、不思議な魅力があって、食べれば食べるほど後を引きます。小さい魚なので上手にせせるよりも、ガブッとかじって骨までバリバリ食べるぐらいがいい感じ。口いっぱいに頬張ったところを、マッコリでえいやっと洗い流すのがたまりません。
江華島に来てこの市場だけでも大満足というレベルですが、いやいやそれではもったいない。数ある名物の中から、これぞという料理をもうひとつ紹介しましょう。
<店舗データ>
店名:江華風物市場(강화풍물시장)
住所:仁川市江華郡江華邑中央路17-9(甲串里849)
住所:인천시 강화군 강화읍 중앙로 17-9(갑곳리 849)
電話:032-934-1318
数ある名物の中から絶対に食べ逃してはいけないひとつ
江華島の特産品であるワタリガニを鍋にしたコッケタン。丸ごと煮込んでいいダシが出るのはもちろんのこと、みっちり詰まった身も、オレンジ色の内子もたまらない旨さです。柔らかな大根もいい味ですし、カボチャが入っているのもポイント。煮込むうちに甘さが溶け出て、段々とコクが増してゆくのです。
島内の外浦里(ウェポリ)という地域に専門店が集まっており、その中でも元祖格として人気を集めるのが「忠南瑞山家(チュンナムソサンチプ)」というお店。鍋料理のコッケタンだけでなく...。
カンジャンケジャン(ワタリガニの醤油漬け)も抜群に美味しいです。
ポイントは江華島の特産品である高麗人参を一緒に漬け込んでいるところ。ほんのりとした大地の風味がいいアクセントになります。
そのほか江華島はウナギも美味しいですし、赤カブや、ヨモギ、サツマイモの名産地でもあります。ソウルからだと地下鉄2号線の新村(シンチョン)駅や、弘大入口(ホンデイプク)駅からバスで2時間弱といったところ。日帰りも充分可能なので、ソウルからのショートトリップとしてもおすすめです。
<店舗データ>
店名:忠南瑞山家(충남서산집)
住所:仁川市江華郡内可面中央路1200(外浦里385)
住所:인천시 강화군 내가면 중앙로 1200(외포리 385)
電話:032-933-8403
八田 靖史
1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』(小学館)、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』(三五館)ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州(ヨンジュ)市広報大使。