それでも旅を明洞から始めるべき理由 〜至福の朝ごはんとともに
はじめまして、コリアン・フード・コラムニストの八田靖史です。今回からこのコラムを担当致します。専門である料理の話題を中心に、さまざまな韓国情報をお届けする予定です。
さて、そんな記念すべき初回に何を書こうか悩んだ結果、旅の始まりはやはり明洞（ミョンドン）ではないかと思い至りました。ソウルを代表する繁華街であり、飲食店やショップなどの立ち並ぶ定番の観光スポット。コラムのネタにするにはベタすぎるほど、ベタな町ですが、どんなにリピーターになっても、やっぱり足を運んでしまうのが明洞です。
「むしろ、リピーターこそ旅の始まりが明洞！」
とも言えるのではないかなと。
明洞をまず訪れなければならない理由その1は、両替です。空港で両替するよりもレートがよいので、リピーターになるほど町中の両替所を愛用します。上の写真は「中国大使館前」と呼ばれるエリアの両替所で、明洞内でもレートがよいと評判です。
あるいはセブンイレブン内の両替所もよく行きますね。有名な「河東館」というコムタン（牛スープ）専門店の向かいにあるのですが、コンビニだけあって24時間営業なので、夜遅くや、早朝に立ち寄らねばならないときに便利です。
明洞では新ネタ続々の屋台料理にも目を光らせよう
そのほか、明洞では日本人観光客の動向を横目で眺めたり（最近は円安の影響もあって日本人観光客は減りがちなので、日本人の姿を見るとホッとする）......。
屋台料理のニューフェイスをチェックしたり。明洞にはメインストリートの明洞キルや、明洞中央路など、屋台の密集するエリアがあるのですが、ソウルのどんな地域よりも新ネタがいち早く投入されることで知られています。明洞だけで消えていくものもありますし、明洞から羽ばたいて全国に波及するようなヒットコンテンツも多々。繁華街の明洞で火が付けば商品価値の高さを立証でき、クチコミも大きく期待できるということでしょう。
そんな感じで慌ただしく必要な用事とリサーチを済ませ、本来の目的地へと素早く移動するというのが僕にとっての明洞ですが、人によってはコスメを買ったり、お土産を買ったりにも便利な町。慣れた人ほど「いまさらの明洞」が「されど明洞」であって、なんだかんだで刺激になるのが「やっぱり明洞」なのだと思います。
朝ごはんその1は胃にやさしく滋味深い味わいの一品
あとは訪れる時間次第ですが、個人的には朝ごはんの町としても活用しています。早朝に訪れて両替などの用事を済ませ、ささっと朝ごはんを食べて、どこぞに繰り出すという流れですね。
お気に入りのひとつが「世宗ホテル」裏の路地にある「香苑」というお粥店。写真はチョンボッチュク（アワビ粥）W1万6000ですが、国産の活アワビを毎日仕入れて使っているのが自慢です。ダシが出ているにもかかわらず、具のアワビにもしっかりうま味が残っているのが嬉しいところ。薄味に仕立ててあるので、序盤はまず素材のよさを感じつつ、中盤から終盤にかけては、同じく名物である副菜のオジンオジョッ（イカの塩辛）を足して変化をつけると2度楽しめます。
むしろ、このオジンオジョッを活かして、シンプルなヤチェジュク（野菜粥）W7000を頼むというのも意外によかったり。
こちらがお店のオモニ。料理の基本は「母から受け継いだ味をそのままに」だそうです。
＜店舗データ＞
店名：香苑（향원）
住所：ソウル市中区明洞8カキル43（忠武路2街12-20）
住所：서울시 중구 명동8가길 43(충무로2가 12-20)
電話：02-755-3196
朝ごはんその2は日本でも人気のアツアツピリ辛料理
そして、もうひとつ。明洞の路地裏にある「イェジ粉食」という店のスンドゥブチゲ（柔らかい豆腐の鍋）W6000も朝食にぴったりの一品です。アサリのダシが効いたピリ辛のスープに、落とし卵の黄身をぷつんと割って溶かし、ふるふるの豆腐と絡めていただけば、ごはんと合うことこの上なし。明洞にあって早朝5時から営業しているというのも喜ばしいポイントですが......。
副菜が充実しているというのも嬉しいですね。
料理上手なお母さんと、にこやかな笑顔で接客するお父さんのふたりで店を切り盛り。10人ちょっとも入ればもう満員という狭い店内には、早朝からひっきりなしにお客さんが詰めかけ、絶えず熱気に包まれています。
こんな感じにお気に入りの店を見つけてしまうと、ますます離れがたくなるのが明洞。路地に入ると穴場店もまだまだありますし、人気スポットがゆえに盲点となっている面白さもあったりします。
旅の始まりに明洞。ビギナーからリピーターまで等しく楽しめる町です。
店名：イェジ粉食（예지분식）
住所：ソウル市中区明洞7キル20（明洞1街42-1）
住所：서울시 중구 명동7길 20(명동1가 42-1)
電話：02-777-1820
八田 靖史
1999年より韓国に留学し、韓国料理の魅力にどっぷりとハマる。2001年より執筆活動を開始し、最近は講演や、企業のアドバイザー、グルメツアーのプロデュースも行う。著書に『魅力探求!韓国料理』（小学館）、『八田靖史と韓国全土で味わう 絶品!ぶっちぎり108料理』（三五館）ほか多数。ウェブサイト「韓食生活」を運営。2015年より慶尚北道栄州（ヨンジュ）市広報大使。
